お隣、22日目 ページ22
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父と母が離婚した。
元々家に帰ってくることの少なかった父だが、段々と連絡がつかなくなり、ある日突然帰ってきたかと思ったら離婚話を持ち出されたという。
あまりに自分勝手な父だと思う。
母はいつも私に優しかった。父に見放され辛いだろうに、それを表に出すことはしなかった。私が心配するのを避けたかったんだろう。
悲しいというより、空っぽになった気分だ。
父は、私が良い子にしているとよく頭を撫でてくれた。『Aは良い子だな』と言ってほほ笑んでくれた。それが嬉しかった。
だけど、私は良い子じゃなかった。
父親に褒められたいあまり、『良いこと』を沢山しただけ。根っからの良い子ではない。
その事実が私を苦しめた。
生まれつきの良い子だったら、父親は私の頭をずっと撫でていてくれたんじゃないか。離婚なんてしなかったんじゃないか。
__離婚の原因は、私かもしれない。
一度考えだしたら止まらなかった。
きっとそうだ、絶対そうだ。
疑心は確信に変わり、頭の中で声が響き続ける。
『お前のせいだ』
私はその日、家を飛び出した。
母親が止めるのも無視して、何も考えずに飛び出した。
いつの日か、まだ幸せだったあの頃、家族3人で出かけたお祭りで、父が買ってくれたひょっとこのお面をつけて。
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「何があったんや、なあ、ゆうてみい」
「……なんにもないよ!ホント!」
そういったAの顔はどう考えても『なんにもなかった』顔ではない。笑顔の裏に何かを隠して、無理やり口角をあげていた。
なんでそんな風にして笑うのか、俺には分からない。
嫌なことがあったらいやだって言えばいい。それでぶつかって、喧嘩になって、それでも何もしないよりはましやと思う。俺とツムなんて毎日そうなんやから。
しかし少なからず、目の前の女にとってはそうではないらしい。
「無理して笑って楽しいんか」
「楽し、くはないけど…」
俺の質問に苦笑するA。その苦笑は本物やな、と言ったら今度は目を丸くして「全部本物だよ」と見え見えの嘘をついた。
楽しくはないけど、とAが繰り返す。
「でも、楽しくなるかなって」
「……は?」
笑ってたら、楽しくなるかなって。
そう言ってAは笑った。
ヘタクソな笑い方だった。無理やり口角をあげただけの、ぶっさいくな笑顔だった。
次月、Aは東京の実家に帰るという理由で、転校した。
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冬田(プロフ) - 結衣さん» こちらこそ温かいコメントありがとうございます(^-^)本当に嬉しい限りです!そちらの曲も聞いてみたいと思います! (2020年5月27日 13時) (レス) id: 4ea05f3e1b (このIDを非表示/違反報告)
結衣 - 本当に素敵なお話しをありがとうございます!!OneRepublicのCounting Starsという曲のようで感動しました!聞いてみてほしいです! (2020年5月26日 12時) (レス) id: f0b62f3d9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬田 | 作成日時:2020年5月15日 20時