▶追憶:ユウジンヘ ページ47
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古風な様式の実家は、小さい頃の無知な私にとってはお城みたいだった。
御伽噺に出てくるような真鍮の蝋燭立てやシャンデリアが飾ってある訳じゃないけれど、開けても開けても繋がっている和室や、繊細な職人の技巧の凝らされた模様が美しい襖は、いくら見ても飽きなかった。
それでもあまりにも同じ空間が続きすぎるから、誰かが着けた床の傷跡を頼りに部屋に名前をつけたりして。
稲妻みたいな傷のついた部屋は《雷様の部屋》、その奥は目つきの悪い野良猫がよく忍び込むから《猫又様の部屋》、あの曲がり角の部屋は描かれた鳥たちの色が日に焼けてなくて一際濃いから《孔雀様の部屋》__
名前をつけていくのは探検と一緒で、明朝、誰も起きてこない時間に私はきっかり一時間だけ毎日御屋敷を散歩する。
覚える部屋がありすぎて時折混ざる時もあるけれど、将来のためと言われて覚えさせられる訳の分からない勉強よりはずっと楽しかった。
__高い塀が建てられたここが鳥籠だったのだと気付く前、私が五歳の頃だった。
霜の降りる寒い冬、上に着込む物は与えられていないからカチカチと生え変わり途中の乳歯を鳴らしながら静寂に包まれた廊下を歩いた。
《孔雀様の部屋》を通り過ぎてもう少し、その日は《弁財天様の部屋》から奥を探検する予定だった。
背伸びをして重い襖を動かして、怖い婆やが起きてこないように忍び足で部屋に入る。
父様と母様が寝ているのは反対の東棟、使用人達がいるのは北の外れにある隔離棟だから、よっぽどのことがないとバレないのだけれど。
部屋の中にある襖を更に開けて、開けて、どんどん進んでいく。
十枚くらいジグザグに進んで行った時、一枚だけなんの絵も描かれていない扉に出会った。
取っ手の飾りだけが妙に豪華で、金色の細かい筋がいくつも入っている。
何かに誘われるようにして無意識に近付けば、こんなに寒いというのにじわりと手のひらに汗が滲んだ。
開けろ、となにかに言われているような。
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なぎしば(プロフ) - 改革さん» ご指摘ありがとうございます。確認したところ訂正すべき箇所が分からなかったのですが、具体的にどのセリフか教えて頂けますでしょうか? (4月20日 0時) (レス) id: 520c46c8a4 (このIDを非表示/違反報告)
改革 - 三話の一方通行って話の中のセリフがおかしかったです。 (4月18日 9時) (レス) id: bf669bb16c (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 作者さんの素晴らしい語彙力で、戦闘シーンの緊張感などリアリティ満載の作品が楽しめました!とっても面白いです、ありがとうございました。 (2月25日 10時) (レス) @page33 id: 991a92c757 (このIDを非表示/違反報告)
なぎしば(プロフ) - わたあめさん» 感想を頂けてとても嬉しいです!更新頑張りますので、これからも飽きずにお付き合い頂けたら幸いです! (5月14日 16時) (レス) id: b937c10b42 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 凄く面白かったです!テスト前なのに一気見しちゃいました笑更新頑張ってください!! (2023年5月11日 0時) (レス) id: ddaf0618b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なぎしば | 作成日時:2023年2月7日 17時