幻影 ページ44
．
そう、思っていたのに。
「＿＿お、起きたか。
体調は大丈夫か？」
薬品と消毒液の匂いで満たされた空間は、家入先生がよくいた場所と変わらない。
けれど大好きなその幻影を求めて伸ばした手は空を掴み、白く柔らかなあの手は私の頭を撫でてくれない。
落ち着いた、抑揚の少ない淡々とした口調でいつもみたいに体調を心配されることはなくて、代わりに聞いた事のない男性の声が返ってくる。
朗らかな優しさを持っているはずのその声は、今の私には優しくなかった。
視線を巡らせて通い慣れてしまったあの保健室じゃないことに気付いて、アレが夢だったのだと知る。
胸に去来する虚しさが瞳に薄く膜を張り、瞬きとともに零れ落ちた。
薄々気づいていた。
可能性を考えた。
また大好きなあの空間に戻って、あの空間で私も彼らと時間を共有する一人として過ごしていくことを監獄の中で夢見てた。
でも、やっぱり、この悪夢は覚めてくれないのだ。
＿＿悪夢は、いつだって目を逸らしたい現実なのだ。
「うぉっ？！
どうした、どっか痛むのか？」
背を撫でてくれる手は分厚くて、落ち着く優しさを持っていた。
＿＿違う。私が求めてるのは、これじゃない。
気づいていたのだ。
もう、私が
あの世界で、今まで通り彼らと笑いあって過ごすことなどできないこと。
だって、そのために私たちはあそこで多くのものを失いすぎた。
もう、皆の名前を呼ぶことだって、できないのだ。
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なぎしば(プロフ) - 改革さん» ご指摘ありがとうございます。確認したところ訂正すべき箇所が分からなかったのですが、具体的にどのセリフか教えて頂けますでしょうか？ (4月20日 0時) (
レス) id: 520c46c8a4 (このIDを非表示/違反報告)
改革 - 三話の一方通行って話の中のセリフがおかしかったです。 (4月18日 9時) (レス) id: bf669bb16c (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 作者さんの素晴らしい語彙力で、戦闘シーンの緊張感などリアリティ満載の作品が楽しめました！とっても面白いです、ありがとうございました。 (2月25日 10時) (レス) @page33 id: 991a92c757 (このIDを非表示/違反報告)
なぎしば(プロフ) - わたあめさん» 感想を頂けてとても嬉しいです！更新頑張りますので、これからも飽きずにお付き合い頂けたら幸いです！ (5月14日 16時) (レス) id: b937c10b42 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 凄く面白かったです！テスト前なのに一気見しちゃいました笑更新頑張ってください！！ (2023年5月11日 0時) (レス) id: ddaf0618b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なぎしば | 作成日時：2023年2月7日 17時
