検索窓
今日:204 hit、昨日:385 hit、合計:235,846 hit

ノスタルジー ページ42

No side

__波一つない凪いだ海は、まるで先刻までの戦乱を夢にするようだった。



後ろに双剣を構えたドクロが揺れる海賊船__四皇の一角である《赤髪海賊団》の船上。

左目に三本の傷を称え赤髪を揺らす男は、この海に名を轟かせる存在が乗る船として相応しい母船のヘリに右腕を付き、ただ黙って海を眺めていた。





思い出すのは己が幕を下ろした、歴史に名を残すであろう大戦争。

海軍と白ひげ海賊団__両者に甚大な被害を与えたあの戦争は、自分が想定していた最悪の事態にはなっていなかった。


聞けば、昔帽子を預けた己の友人と、名もしれない謎の少女が活躍したそうで、戦争の焦点にあったエースは無事に白ひげ海賊団によって奪還された。

しかし、その代わりに嘗て自分の大好きなあの人と肩を並べていた大海賊の一人が命を落とした。

今や隣に並び立つことができるようになった大きな背中を見ることは、もう無い。


あの戦争は、大きなものを得て、大きなものを喪った。


いずれもかの大海賊“ロジャー”が遺した意思で、また一つと消えていく思い出の顔を、それだけで側に感じる。




「…感傷なんて、らしくねぇな」




ふ、と自嘲気味に笑みを浮かべた男は海風で膨らんだ黒外套を、失くした左腕を抱くように押さえつける。

そして、ヘリから起こした体をもう一度海の方へ向け。




「__頭。目が覚めたらしい」




背後から聞こえた声に振り向けば、タバコを蒸した長年一緒にいる色男。

真っ白な長髪は十年ほど前までは漆黒のカラスの羽の如く美しかったはずなのだが、いやはや、一体何がストレスとなったのか。

それでも尚男の自分でも時たま惚れ直してしまうほどに良い男なのだから、横をすれ違った時に香る女物の香水の匂いに苦笑する。




「ああ、今行く」




ゆったりと歩き慣れた船内を迷うことなく進み、医務室の扉を開ける。



中にいたのは、人当たりの良さそうな笑みを浮かべる船医のホンゴウと、長い黒髪を持った少女。

白い肌に着せられた男物の白いシャツが体のラインに沿ってシワを描き、彼女の細さを際立たせた。


白と黒で完成された芸術。
彫刻のように整った秀麗な容貌に、一つの色を添える紫紺の瞳。

一瞬揺れた吸い込まれる美しさを持つその双眸は、寝顔を見ていた時に想像していたものよりもずっと美しくて。



アメジストのその瞳に映る自分は、きっと今、どうしようもなく目の前のものを欲しているのだろう。

▶追憶:《家入硝子》→←#



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (344 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
775人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

なぎしば(プロフ) - 改革さん» ご指摘ありがとうございます。確認したところ訂正すべき箇所が分からなかったのですが、具体的にどのセリフか教えて頂けますでしょうか? (4月20日 0時) (レス) id: 520c46c8a4 (このIDを非表示/違反報告)
改革 - 三話の一方通行って話の中のセリフがおかしかったです。 (4月18日 9時) (レス) id: bf669bb16c (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 作者さんの素晴らしい語彙力で、戦闘シーンの緊張感などリアリティ満載の作品が楽しめました!とっても面白いです、ありがとうございました。 (2月25日 10時) (レス) @page33 id: 991a92c757 (このIDを非表示/違反報告)
なぎしば(プロフ) - わたあめさん» 感想を頂けてとても嬉しいです!更新頑張りますので、これからも飽きずにお付き合い頂けたら幸いです! (5月14日 16時) (レス) id: b937c10b42 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 凄く面白かったです!テスト前なのに一気見しちゃいました笑更新頑張ってください!! (2023年5月11日 0時) (レス) id: ddaf0618b1 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:なぎしば | 作成日時:2023年2月7日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。