47、バスの中で ページ47
「赤葦、何で二人を真ん中の席にしたんだよ！」
「せめて一番前とか後ろにしろよ！」
木葉と小見が、前の席の赤葦に話し掛ける。
赤葦の横には通路。その横にAと木兎が座っている。
「二人の話が良く聞けるようにです。ですからお二人もお静かにお願いします」
「お、おう」
いつも以上に真剣な顔だった為、二人は頷く他なかった。
「……」
しかしその肝心な話が聞こえてこない。何せ二人は先程から何も話さないのだから。
「A」
「っな、何、？」
「早く済ませてくれる？」
流石に待っていられなくなったのか、赤葦は鋭くAの名前を呼ぶ。
明らかに機嫌が良くないと察したAは、ずっと外を眺めている木兎の腕を突いた。
「あの、話って……」
木兎は決してこちらを見ようとしない。
何故ここまでも腹を立てているのか。Aは何かしてしまったのだろうか。考えてもそれとらしきものは見当たらない。
「……あの、」
また突いても反応はない。
Aはどちらかと言うと短気である。それは岬も同様。やはり姉妹で似ているのだろう。
「話す気ないなら男バレのバスに呼ばないでくれます？！私、本当は女バレのメンバーとわいわいしながら帰りたかったんです！こんな重たい空気で座ってたかった訳じゃありません！」
これ程怒鳴り込めば、木兎はこちらを向く他ない。
「A？落ち着いて？」
「深呼吸だよ〜！」
前に座っていた雀田と白福が慌てて声を上げる。それで落ち着いたのか、Aは二人にぺこりと頭を下げた。
「で、話ってなんですか？」
それから声を潜めて木兎に再度尋ねる。
「いや、なんて言うか……」
そこまで言うとまた黙り込んでしまう。
「……私、イライラしてたんです」
すると、Aはゆっくりと口を開いた。
「俺が変な返事したから、……」
「そうですよ！木兎先輩があんな素っ気なくしたからですよ」
頬を膨らませ、木兎の頬を強めに引っ張る。
「いひゃいよ！いひゃい！」
涙目になっていようが容赦ない。その手を離す気はないようだ。
「ムカついたんです。今までなら頭ぶっ叩いて終わりだった筈なのにですよ？私最近可笑しいんです」
Aはそれと向き合おうとしているのか。
だがその瞳は決意がある様には見えない。
「私、木兎先輩の事……好きですよ」
Aは静かに目を伏せる。
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作者名：もやし | 作成日時：2020年10月22日 23時
