好きと気付いたバレー馬鹿【木兎光太郎】 (ページ43)

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43、合宿②⑥ ページ43

『そうなの！木兎先輩に従ってたらこうなっちゃってさ～』

それから間も無く、Aのスマートフォンが震え出した。

『木兎先輩って結構豪快な人なんでしょ？学校でも有名だよなw』

相手はAの事が愛おしくて仕方ない夏目だ。
木兎はAがいきなり構ってくれなくなった為、拗ねた様に口を尖らす。

『木兎先輩、拗ねちゃった』

その姿が可愛く見えるのだろう。
Aは笑いを堪えながら夏目に伝える。

『……A。電話さ、木兎先輩に代わってくれる？』

『え？いいけど……』

すると穏やかな夏目の声が、少しハスキーになる。
不思議に思いながらも、Aは木兎にスマートフォンを手渡した。
渡された本人もキョトンとしている。

『初めまして。Aの彼氏の夏目です』

『男バレ主将の木兎だ。……いきなり何だよ』

木兎は普段は馬鹿だ。
しかし今は気付いているのだろう。

『木兎先輩って……Aの事、好きですよね？』

夏目が一人の男として、木兎を敵視していると。

『正直、分かんねぇ……』

しばらくの沈黙の後、木兎は小さく呟いた。
分からぬ事に苛立ちを感じたのか、頭をわしゃわしゃと掻きむしる。

「木兎先輩？体調でも悪いですか？」

いつもの元気一杯な木兎ではない。
明らかに様子が可笑しい為、Aは俯いたその顔を横から覗き込んだ。

「別に。Aには関係ねぇよ」

木兎はどう返したら良いかも分からなくなった。
だが、その返し方がいけなかったのだろう。

「……そーですか」

Aは木兎に背を向け、膝を抱えて座り直した。

『あの、すみません。何か俺、やらかしたかも』

夏目は木兎の様子に違和感を感じたのか、謝罪の言葉を口にする。

『いや、気にすんな。……悪い、もう切る』

『あ、はい。……気ぃ悪くしましたよね。本当すみません』

木兎はそれに答える気力もない。
夏目のたった一言で、こんなにも自分が変わってしまう。
腹立たしくて顔を上げられない。

『こんな時に言うのもどうかと思うんすけど……Aはあげる気ないんで。そこんとこ宜しくお願いします』

夏目はどこまでもAを愛しているのだと、木兎は今実感した。
電話が切れると、Aのスマートフォンを耳から離す。

そのスマートフォンを持ち主に返そうともしたが、今はそんな状況でもない。
二人の間に、妙な空気がまた流れ出した。