第9話 ページ9
あちこちに飛び散る大量の血。
ごとりと不快な音を立てて床に転がる彼の頭。
何が起きたのか、わからなかった。
女性の方が日本刀のような物で彼の頸を斬ったのだと理解するまでの時間が、途方もなく長く感じた。
いつの間にか男性から離れられるようになっていた私はゆっくりと彼の元へ近づく。
彼の身体はもう半分ほど消えており、頭も消え始めていた。
「ごめんね。約束守れなくて」
彼は悲しそうに微笑む。
言葉が、出なかった。
言いたいことは沢山あるのに。
言えてないことが山ほどあるのに。
私はただ、彼が消えていくのを見つめることしかできなくて。
結局、何一つ言えないまま彼はいなくなってしまった。
「…なんで」
ようやく出せた声は少し枯れていて。
「なんで、殺したの?」
口から飛び出た言葉は、お別れの言葉でも悲しみの言葉でもなかった。
「…鬼だからよ。鬼を滅するのが私たちの仕事なの」
彼を殺した女性が言う。
「彼は鬼なんかじゃなかった。容姿こそ変わっていたけれど、声や性格は何一つ変わっていなかった!」
女性のことを力一杯睨む。
女性はそれに動揺することもなく、冷酷なその表情を崩すこともなかった。
「貴方たちこそが鬼だわ!!人殺し!!」
沢山叫んだ。
沢山暴言を吐いた。
沢山泣いた。
二人は、そんな私を咎めることもなくただずっと見ているだけだった。
それからしばらくした頃、少女は体力を使い果たしたのかプツンと糸が切れるように意識を手放した。
少女は、生きる希望を失った。
これが、可哀想な少女の可哀想な話。
これはまだ、ほんの一部だけだけれど。
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作者名:みゆう | 作成日時:2020年8月16日 6時