誰にとっての英雄か ページ6
「コイツにとって、弟や妹がそうだったように。
お前の兄ちゃんにとってのお前みてーに。
そういう、大事なモン守りたくて、そいつを取り返したくて必死に生きてんだ。だから、コイツはお前を殴ったんだよ。
お前はただ、攘夷志士だった兄貴に憧れてたただのガキだ。いつの間にかショッカー側に立っちまったけどな。
ま、アレだ。ヒーローに憧れて闇堕ちするって奴ァ大抵何かに嫉妬して諦めてんのよ。それが、お前にとってのコイツだってワケだ」
ぽん、とAの頭に手を置いてわしゃわしゃと撫でた。押さえ込んでいた隊士は退き、そっと距離を取る。
愕然とした顔つきで雪慈はAを見やる。いつもそうだった。自分のことよりも弟妹のことばかり考えて、他所から来た自分にさえも気遣って。なのに勝てなくて、憧れと嫉妬が渦巻いていたのかもしれない。
「兄ちゃんよ、コイツに勝てなかったからってどうなんのよ。俺だって棺桶に片足突っ込んでるババアに殴られたりしてるよ。いっつもKOされてるよ」
「それアンタが家賃払わないからだろ」
「コイツがどんぐれぇ強えかなんて知らねぇし、知りてぇとも思わねぇ。けどコイツが、お前みてえにでっけぇ奴吹っ飛ばすくれぇ強くなったのは、守りてえ奴がいたからじゃねえの」
「……んだよ、それ…」
「ま、まだ若ぇんだしよ。ムショから出りゃ、それなりに探すことできんだろ。てめーが守りてぇって思うもんがよ。英雄なんて、ロクなモンじゃねぇ」
唇を戦慄かせて、震える膝を折って地に頭を付けた。
腕は隊士たちに取られているものの、それは紛うことなき土下座だった。
雪慈は麻薬製造に関与していたとして、屯所で事情聴取を受けることになった。その後は、しばらく留置所からは出られないだろうと土方は言う。
「まだ未成年つーこともあるが、初犯だしな。まァ、まずは様子見だ」
「そうですか……」
「ああ、あと」
ちら、と一瞥したのは護送用とはまた違うヘリ。そこから、煤けた頬をした幼い少女がとすっと躍り出てきた。
神楽が普段遊んでいる子たちよりも小さいその子どもは、Aを見るなりめいっぱい走ってその腰に抱きついた。
「ねえちゃ、」
「沙代」
「ねえちゃ、ねえぢゃあ……」
涙に濡れた声色が震え、ぎゅうと抱きつく力を込める。
煙草を消した副長の目は、鬼と称される喧嘩屋のそれではなく優しい光を宿していた。
「ガキ共は保護ついでに連れて来た。構わねぇよな? 姉ちゃん」
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りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!もし決まってましたら、大前兄妹の年齢を教えていただけないでしょうか? (2021年2月24日 15時) (レス) id: 5b2ad52f60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年2月23日 17時