遺恨の雪は溶けるように ページ42
屯所に戻り、忘れ物をしたと門番に話すとすぐに通してくれた。
ここに足を踏み入れた回数は銀時の方が多いので間取りは彼の方が熟知している。牢獄まではさすがに知らないが、それっぽいなと思しき場所にアタリをつけている。
隊士がいない隙を狙い、恐る恐る手をかける。薄暗い空間が銀時たちを招き入れ、暗闇の底から悲鳴のような雄叫びが聞こえた。
ささっと入り、慎重に扉を閉める。こつ、こつ、と足音だけがやけに大きく音波の波紋を広げる。
と、そこへ見えた柵。向こう側には、数日前よりも痩せ細った目当ての人物がいた。
「よォ、雪印メグミルクくん」
「……誰だよ、それ…」
「お前んとこの師範代の依頼だ。まだテメェを殴り足りねぇってさ」
「は……？」
バキン、と鉄が破壊される音に一瞬遅れた左頬の衝撃。
コンクリートの床に横たわる男を見下ろし、大前Aは立っていた。
「起きて。攘夷志士になろうとした男は、そんなのでやられるの？」
「て、めぇ……」
「今のは、防空壕に引きこもってて目を悪くした美菜の分」
間髪入れず奮われる拳を受けとめ、折れた歯が口内の血とともに飛ぶ。
「稽古場を壊されて、大事な竹刀を折られた龍之介の分」
「ごはッ!!」
「襲われかけて男性恐怖症になりかけた沙苗の分!!」
「げほっ……は、はぁっ……」
「攘夷浪士に斬られて全治2週間の傷を負った孝太郎の分!!」
「ぁがっ!!」
「……私宛の手紙を破られた、沙代の分」
「ぅぇろっ……は、はァっ…も、もうやめ…」
「勝手に道場踏み荒らして、父さんと母さんの遺影焼いた分!!!」
「ガぁッ!!」
「大前家に、手を出した分。きっちり借りは返すよ、寺岡雪慈」
胸倉を掴み、思い切り振りかぶった渾身の一発が鳩尾を捉えた。
ノックダウンされた男はぴくりとも動かず、白目を剥いていた。
おっかねーこと、と檻の向こうにいる銀時が呟く。
大きく膝を曲げ、浮いた踵が男の下半身を踏み抜いた。断末魔のような雄叫びが響き、銀髪男は股間を隠した。
「行きましょう」
そう声をかけた彼女は、晴れ晴れとした様子で牢を出た。きちんと鍵をしめようとするが、肝心の鍵は破壊されてしまっているためにどうしようもない。
囚人の叫びが聞こえたのであろう、隊士たちが何事だと慌ただしく足音を立てた。
こっちだ、と手を引く銀時に連れられてAも走る。
後ろを振り向くことは、無かった。
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りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています！もし決まってましたら、大前兄妹の年齢を教えていただけないでしょうか？ (2021年2月24日 15時) (
レス) id: 5b2ad52f60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：pillow | 作者ホームページ：
作成日時：2021年2月23日 17時
