出会って八日目 ページ9
「ちょ、ちゅ、中也さん!」
「手前は黙ってろ!!」
腕を掴んで静止しようとする立原を一蹴し、再度少女に目線を向ける。驚愕や困惑、悲しみが入り交じったような複雑な表情で、どうにか俺と目が合っている状態だった。
「A、よく聞け。猫と遊ぶのはいい。それを咎めるつもりはねぇよ。けどな、お前それよりも先に俺たちに言わなきゃならねぇことがあンだろ。態々口煩くは言ってこなかったが、何故俺が怒っているのかはわかるよな」
この少女は他人との接触を極端に拒んでいた。そして、午後の22時には眠りについていることは互いの認識のなかで暗黙の了解だったはすだ。その時間帯には大抵俺か立原が就寝の確認に来ることを、此奴は知っていた。
だから注意をしておく必要はないのだ思っていた。無闇に外を歩き回るなと言わなくても、そうするだろうと。当たり前のように考えていたのだ。
『迷惑かけて、ごめんなさい...』
その言葉にふっと息を吐いて笑った。瞳いっぱいに涙を溜めて、どうにか零さないようにと気をつけながら。必死に、真剣に、謝っていた。
「あぁ、そうだよな。まずは謝罪だ。でも一つ違う。この場合は迷惑をかけてじゃない、心配をかけて、だ。突然医務室からお前が消えて、俺たちはお前の身に何かあったんじゃないかと心底焦った。立原なんて終始青ざめた顔してやがったんだぞ」
『うん...』
「だからなA、もう勝手に部屋を出たりしないでくれ。何度もこんなことされちゃ、心臓に悪くて適わねぇ。あと悪かったな。頬、痛かっただろ?」
『う、ん...』
我慢が限界を超えたらしい。ダムが決壊したかのように、ぼろぼろと大粒の涙を流して泣き始めた。痛みと、凄まれたことへの恐怖と、それから。
嬉しそうにも見えたのだ。
これは俺の都合のいい想像にしか過ぎないが、ひょっとすると此奴は、誰かにこんな風に叱ってもらったことがなかったのかもしれない。
いつも自分本位に怒られたり、腹を立てられるばかりで、本当に身を案じた言葉を掛けてくれる大人が周りに居なかったのかもしれない。
それはきっと、幼い子どもの心を殺してしまうくらい悲しいことなのだ。
「氷嚢を持ってきてやるから、手前は部屋に戻って寝る準備してろ」
『わか、った』
ぐずぐずと鼻をすすりながら立原に連れられて部屋を出ていく少女を見送ると、部屋の奥で小首を傾げる侵入者を見やる。
「あんまり彼奴を連れ回さないでくれよ」
返事をするように、猫はにゃあと鳴いた。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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