家族になって二十二日目 ページ44
**
事件から二日後の昼。少女はやはり、姿を見せなかった。ポートマフィアの面々と接しているときの彼女を見る限り、彼らを心から慕っているのだろう。その彼らを否定されて飄々としていられる子ではきっとない。
あの少女の存在ひとつに、空気が揺らいでいた。
少女には何の罪もない。紆余曲折あってマフィアに拾われ、養い子となっていることも聞いた。それでも与謝野先生と同じく僕も、いやほとんどの社員が、マフィアに納得していない。
太宰さんは依頼者として割り切ればいいと言っていたけれど、彼女を否定せず彼女の環境を否定することは、あまりに無理難題に思われた。
だからこそこのまま彼女が二度と姿を現さなかったとしても、誰も文句は言えないのだ。
そのとき、がちゃりと扉が開かれる音。
『本を読んでいてわからない言葉があったから、太宰に聞きに来た』
Aちゃんだった。
いつものように平然となんでもないような顔をしてそこに立ち、片腕には彼女らしくもない分厚い本を抱えている。咄嗟に駆け寄ったのはもちろん与謝野先生だ。
「A! その、この間は」
『別にもう気にしてないから大丈夫』
「え?」
困惑した表情の女医にとりあえずこれと少女が押し付けたのは手にあった本。ここと、ここと、ここがわからないから読み進められないのと詰め寄る。
「わかった、わかった教えるよ」
押し負けた与謝野先生と共にソファへと腰掛けたAちゃんは、教そわった言葉と読みと意味とを丁寧に手帳に書き込んでいく。
書き込みながら、不意に少女が口を開く。
『昨日の朝、中也さんに少しだけ叱られたあと難しい話をされたの。まあよく分からなかったから、とにかくその後に言われたことを実行してみた。絵本を読んだの』
「絵本?」
『そう。それで、わかったの。例えばシンデレラの酷い継母も、意地悪な姉たちにとったら大切なお母さんでしょ。きっと私の世界はまだ狭いってこと』
一面を一方通行にしか見ていないから、俺たちを優しいと言えるんだ。昨日の中也さんが言いたかったことは多分そういうことと続けた。
『だから、世界を広げようと思ったの。そのためには怒る相手を間違えてるって気付いた。それから絵本に学ぶのももう終わり』
そう話す少女の顔は、出会った頃より随分と引き締まって見えた。
その横顔に向けて太宰が面白そうに呟く。
「へぇ、すごいねAちゃんは。世界を広げる足掛かりがキルケゴールの【あれか、これか】とは」
316人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ