家族になって十九日目 ページ41
「アンタ、なんだか吹っ切れた顔してるね」
翌朝の武装探偵社社内で女医を名乗る女性が私に言った。
「確かに言われてみればそんな感じがしますね。昨日の夏祭りで何かあったの?」
兄の方の谷崎に問われる。私は分かりきった答えをほんの少しだけ考える振りをして、勿体ぶって口を開く。何故だか気持ちが弾んでいた。
『わたがしを食べたの』
「へぇ、それで?」
『それだけ』
「えっ」
意外に簡潔な返事に戸惑った谷崎を他所に、私は今日の分の問題集のページを確認する。その様子にふふっと笑った太宰が白紙の用紙にさらさらと英文を書き込む。
“You are looking forward to the next summer festival,right?”
私は迷わず“Of course”と返した。
*
夕方五時の頃。外は未だに太陽が高い場所にあるおかげで明るく、その眩さに目を細めてぼーっとしていると突然後方でどすんと大きな音がした。
「うわぁ!」
『わっ...』
おそるおそる後ろを振り返ると、そこには尻餅をついた中島と、転がったビー玉、おそらく音の原因である大きなダンボール箱があった。そこから大方の察しがつく。
「ら、乱歩さあーん! ビー玉は落とさないでくださいよう」
「あー、ごめん敦。拾うの忘れてた」
もうと言いながら男は立ち上がってまた業務を再開する。幸い箱の中の資料が散らばることはなく、惨事は避けたようだった。
「Aちゃん、大丈夫?」
が、生憎こちらは大惨事だ。
心配しているように見せかけて笑いをこらえる太宰に苦い顔を向け、びちょびちょになった服を見下ろす。先程の音に驚いた拍子に持っていたコップの水をぶちまけてしまったのだった。
『ここに居たらすぐ乾くし、別にいいけど』
「何言ってんだい。こんな冷房が効いてる部屋だからこそ、濡れたままの服なんて風邪を引くに決まってンだ。服貸してやるからこっちに来な」
腕を組んで諭す与謝野に押され、その背を追いかけた。
そして数分後、控えめに探偵社の扉が叩かれる。出迎えの者が出るより早く開かれた戸の先に居たのは、今日の迎え役である立原だった。
「ちわーす、A迎えにき...」
『触んないで!!!』
すぐ、奥から絶叫が聞こえたかと思えば、必死の形相で逃げるように走ってくる少女。玄関に見知った顔を見つけて少しだけ顔を引きつらせると、泣きそうな顔で彼へとしがみついた。
「ちょ、おい。どうしたんだよA」
緊迫する社内で、彼女は小さく震える声を上げる。
『お腹、見られた』
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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