家族になって十六日目 ページ38
着付けてもらった浴衣とまとめて結ってもらった髪を姿見に映す。我ながら、すごく綺麗だと思った。自分とは思えないくらいの、きらきらした世界の住人が、そこには映し出されていた。
そしてまたちくり、胸が痛んだ。
「中也が外で待っておる。はよう行ってやれ」
その言葉にこくりと頷いて紅葉に背を向ける。部屋を出る直前、後ろから、あまり気張りすぎるなと優しい声が聞こえた気がしたが、扉が閉まる音と重なって定かではなかった。
*
赤提灯が光を灯さずぶら下がり、その下を人々が右往左往と行き交う。屋台料理の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。おかげでぐうとお腹が鳴った。そういえば、中也さんが探偵社に来る少し前には太宰に空腹を訴えていたのだった。
「腹減ったか?」
『うん。中也さんのせいで大食らいになった...』
「はっ! そりゃいいこった、身体に少し肉もついて人間らしくなってきたしな。でもやっぱりまだまだ細すぎだ」
笑う彼にそんなことないと抗議しようとしたところで、前から進んできた人間に押されたことを皮切りに、そのまま人の波に流されていきそうになる。
あっと声を上げるより早く、私の身体は咄嗟に反応していた。何の躊躇いもなく男の手首を鷲掴み、当たり前の如く引き寄せて手を繋いだ。なぜそうしたのかはわからない。
私にとっても理由が不明瞭なことなのだからもちろん、中也さんにしてみれば不思議も不思議な出来事に大きく目を見開いてぱちくりと瞬きを繰り返している。
「な、なんだよ、A。突然どうした?」
『えっ、えっと。そ、そう、前に芥川さんに教えてもらったの。人混みでははぐれないために手を繋ぐんだって。その、中也さんと離れちゃいそうな気がしたから。え、と...ごめんなさい』
しどろもどろしながら答えると、彼はまた一つ瞬きをしてから顔面いっぱいの大きな笑顔を広げて、そうかそうかと言った。それからその手でぐしゃぐしゃと私の頭をかき混ぜたのだ。
「手前は本ッ当に可愛いな」
一頻り撫で終わるとご機嫌に鼻歌を歌いながら手を引く彼に気恥ずかしくなりながら、顔に出さないように喜ぶ。そのときに少しだけ、芥川さんが言っていた言葉の意味がわかったような気がした。
“不機嫌な顔でも中也さんは笑って喜ばれるだろう”
実は手を繋ぎたかった、なんて本音をこの私が素直に言えるわけなどなくて。ただ都合の良い言い訳を引っ張り出してきただけだった。
それでも彼が笑ってくれるから。幸せだった。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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