家族になって九日目 ページ31
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夏季学習二日目。朝から休む間もなく手と頭を動かし続け、ついでに文句を言う口も動かして、ようやく食事のために昼の休憩が挟まれた。既に心身ともに疲労が溜まっていて息をするように太宰への恨み言が漏れる。
『太宰治やだ、きらい、なんで太宰治なの』
「仕方がないだろう? 他人に教えを施すことが出来るほど、私の頭脳が優れているのだから。なんなら国木田君にでも教わるかい。彼は元教師だからもっとスパルタだと思うよ」
『その国木田って人が言ってたんだけどね、太宰治は普段は全く仕事をしなくて役に立たないから、子どものお守り役を任せたんだって。よかったね』
「クニキーダ君! なんてこと吹き込むのさ」
幼稚な言い争いを続ける彼らを遠巻きに見つめて、中島が言う。
「なんだかんだと二人とも仲良しな感じがしますよね。あんなに話してるし」
隣できらきらとした石を覗き込む江戸川は、机の上に散らばった石同士がぶつかってかちんと弾き合ったのを合図とでもいうように、青年の言葉に答える。
「そう? 別に僕は最初から、仲が悪いようには見えなかったけど。あの子と太宰の関係って、素敵帽子くんと太宰みたいなもんでしょ」
「え、それってつまり仲が悪いということでは...」
中島が言い切るより早く、ころんと一つの石が床へと飛び出した。丸く小さな形状が災いして止まることなくころころと転がり、ある人物のつま先に当たって止まる。
それを徐に拾い上げて興味深そうにまじまじと見つめた。
『これ、なあに?』
無垢な少女の問いに、未だ遊び心の残る青年声が返事をする。それはビー玉っていうんだよと。角度によって色や輝き方を変える美しいそのビー玉という代物に、彼女は大層胸をときめかせた。
こんな綺麗な石、絵本の中でしか見たことがない。お城の女王様やお姫様だけが特別に身に付けている宝石のようだった。
「ビー玉を知らないなんて珍しいね。瓶のラムネを飲んだ時とかよく入ってるでしょ、あれだよ」
『瓶の、ラムネ...?』
「飲んだことないの?!」
『うん』
「うわあ、それ絶対人生の大半損してるよ。名探偵の僕が断言する。敦くん、奥にまだラムネ残ってたよね。二本取ってきて!」
そうして用意された瓶のラムネとやらは、硝子で出来た奇妙な形の瓶に入っていてしゅわしゅわと泡の粒が下から上へと吹き上がっていた。サイダーと似ている。
光の雫が瓶の表面をたらりと伝って、中身がより一層輝いて見える。
『絵本の海みたい』
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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