家族になって五日目 ページ27
Aと暮らし始めて丁度二週間が経った。
病室生活の頃も幾度か目にした、彼女が劣悪な環境下で育った証。俺の最近の悩みの種はそれが顕著に表れ始めたことだった。
先日の料理の件もだが、少女は自身が何か失敗をしたと認識すると俯いたまま謝罪の言葉を繰り返す。まるで何かに怯えるかのように周囲の声も届かず、ただひたすらに、許しを乞う。
そして極端に無知なのだ。話をしている限り、彼女は頭の回転が早い。拙くとも言葉はぽんぽんと出てくる。そうでなければ太宰に似ていると感じるわけもない。
問題はその回転に必要な知識が揃っていないこと。所謂勉学と呼ばれるものはもちろん、読み書きも年相応に出来るとは言い難い。押し殺しているだけで表現や感情もどこか幼い印象がある。
「どうしたもんかなァ」
何度も繰り返し謝るのは、おそらく癖だ。以前血縁の者にそう躾られたか、将又そうせざるを得ない環境だったのか。どちらにしても大変に腹立たしいことだ。もしもそいつの面を拝むことが出来たなら、俺が必ずぶん殴る。
とにかく、そのことに関してはその都度注意することで改善させる。
今のAに必要なのは、まともな人間になってこれまでの人生の負を精算するために、人並み以上の幸せを手に入れるために。社会に出る力を付けることだ。
彼女の将来を明るくする義務が、俺にはある。
まずは学校に行かせるところから始めよう。
「Aー、ちょっとこっち来い」
『なぁに』
「手前いくつだ」
『13だけど...』
「学校はどうした」
問いに彼女は口を尖らせて黙り込んでしまった。この様子ではまともに学生をやっていたとも考えにくいが、やはり直接本人から聞き出さねばわからないことの方が多い。
『一応学校には通ってる。中学二年生。でも親戚の人たちの手伝いをさせられたり、家を転々としたりであまり行けてなかった。今は学校から許可を貰って休学扱いだと思う』
私、精神に疾患があるってことにされてるから。
益々頭を抱えた。この娘の周囲の大人は、揃いも揃ってどうなっているのだ。彼女の心の叫びに気付かないどころか、抉って塩を塗りたくるなど、非人道的にも程がある。自身が常人の道徳的観念を持ち合わせているとは考えていないが、最早そんな話ではない。
「よく生きてきたな、ほんと」
『貴方に会うための苦だったと思うと嫌じゃない』
そう言った満月の瞳があまりに澄んでいたから、なんだか気恥しくなった。
316人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ