家族になって一日目 ページ23
何気なく目を覚ましてゆっくりと身体を起こすと、リビングから香ばしい匂いが漂ってくる。窓までぺたぺたと歩き、朝日を目一杯浴びて伸びをすると、やっと頭が冴えてきた。
着替えてリビングに向かうと、朝だというのに夕焼け染まりの髪を揺らして料理をする後ろ姿。机には既にサラダやトーストが並べられていた。今日は苺ジャム付きみたいだ。
「お、起きたな。飯にするから顔洗ってこい」
『ふぁーい』
大きく欠伸をしながら返事をして洗面所へと再びぺたぺた歩く。顔を洗ってから見上げた鏡には、大層緩んだ表情の自身が映っていた。変な顔。
この家に来てから一週間と少しが経った。
あの日、私が彼と別れるはずだった日。
我慢をしていた。本当は施設になんて行きたくなかった。あの人と離れたくなかった。だから頭を撫でられた時、全てが崩れたのだ。矜持も体裁も投げ捨てて泣いて縋った。それを受け入れてくれたあの人にはとても感謝している。
あの人のおかげで私は、人間の営みというものを少しずつ思い出し始めていた。
「んじゃ、頂きます」
『いただきます』
二人で囲む食卓は温かかった。前は食事をしている私を彼が見ているだけだったから、少し不思議な気分だけど。今は楽しみの一つでもある。
「そうだ、今日俺の部下が家に来るから一緒に買い物行ってこい」
『えっ、ごほっごほ! ...どうしたの急に』
驚きのあまり変な器官に詰まらせてしまった食物を水で流し込んで問うと、まだ必要なモン買い揃えられてねぇだろと彼が答えた。
確かに言うとおり、幹部という役目を担っている彼は休みが少ないために、この一週間で揃えたものも全て簡易的なものだ。空いた時間に買い物をしたり、ネット通販で頼んだりしたものが多く、服も少ない。部屋も私くらいの年の子が過ごすにしては些か殺風景かもしれない。
『でも、いいよ。今のまんまで十分』
「また変に遠慮しやがって。いいか? 俺とお前の関係は以前とは違う、今は形だけだとしても家族だ。妙な気遣いはいらねェから大人に甘えとけ」
『でも、でも』
「久しぶりの休暇を取った彼奴に頼むのも忍びなかったんだがな、了承してくれた。安心しろ。年頃の妹が居る奴だから何か困っても相談したらいい」
『ちょっと...』
結局言いくるめられてしまった。
ぶつぶつと文句を言いながらも準備を済まして、仕方なしに家を出て玄関の前で待っていたところ、その人らしき人物が現れた。
「...」
『...』
全身、真っ黒。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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