出会って十二日目 ページ13
澄み渡る静寂を割ったのは、名前を呼ぶ声。
「A、何食いてえんだ」
『美味しいもの。どれが美味しい?』
「全部美味いんじゃね」
『それじゃわかんない』
メニュー表を渡すがなかなか決まらないらしい彼女を見兼ねて店員を呼ぶと、絞り出すような声でおすすめは何かと尋ねてそのまま注文したので、続いて自分は珈琲を頼んだ。
横を見ると口を真一文字に引き結んで震える少女。よっぽど緊張したのだろうか、先程より随分と険しい顔になっていて向かい側の席に座る人虎たちが気の毒に思える。
「手前ちゃんと人と話せるなんて偉いじゃねえか」
『貴方は私のことを何だと思っているの』
「コミュニケーションを取ることが苦手なクソガキ」
『最低』
淡々と会話を交わしていると、恐る恐るといった感じで人虎に話しかけられた。いつもこんな感じなんですか、と。
そういえば何時からこんなに軽口が叩けるような仲になったのだっけ。互いに当初からこの調子であることは確かだが、やはり互いに一線を引いて何処かで遠慮をしていたような気もする。言われてみれば不思議な感覚だ。
「まあ大抵いつもだな」
そう一言答えると、太宰から不躾な視線が送られる。探るような視線。出会い頭に罵りあってからやけに静かだとは思ったが、また存外嫌な表情をしている。相棒関係が解消されるまで、その目の鋭さを直接受けてきたのは、隣にいる俺ではなくいつも敵であったのだ。
知らぬ振りをして再び沈黙が訪れ、響くのは食器と食器がぶつかる高い音と咀嚼音。しばらくしてようやくそれを断ち切るように少女の品が運ばれてきた。
慣れないナイフとフォークを駆使して、一口頬張る。
そしてまた一口、一口と無言で食べ進めて行った。
「美味いか」
『ん』
満足そうに黙々と食べる作業に集中するAを見て、いつもこれだけ素直ならもう少しは可愛げがあるのにと心の中で呟くと、まるでそれが聞こえていたかのような勢いでばっとこちらを見る。
『ききたかったんだけど』
「口に物を入れたまま喋るな」
『ふぁい』
行儀が悪いと睨みつければ、手元の水を一気に飲み干してから再度首を向けた。奥ゆかしさや上品さなど微塵も感じられない食事風景ではあるが致し方ない。作法を教えていなかった俺の責任だ。
『聞きたいこと』
「どうした」
『太宰治って、この人?』
ちらりと視線を移しながら問う。突然話題に上げられたというのに、当の本人はいつも通り底知れぬ笑みを携えていた。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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