名前のない家族 【文豪ストレイドッグス】

出会って一日目 ページ2

酷い抗争のあとだった。

肉が焼ける臭い、原型も留めず転がる躯。連絡を受けて駆け付けた掃除屋と共に戦場を歩きながら、息のある奴を根絶やしにし、気になるものがあれば部下に収集させる。抗争後のよくある光景だった。

横浜から少し外れた場所を根城にするとある組織が、ポートマフィアの失脚を狙って勢力を拡大しているとの情報を仕入れたのが五日前。一週間のうちに全てに片をつけろというのが首領からの命だった。

常であれば三日とかからず組織を焼いて終いなのだが、今回やけに時間をかけてしまったのはここ一帯で武器の取引を行っている者の存在があったからだ。

男は厄介なことに、麻薬の密売にまで手を染めていた。

武器と麻薬では裏世界での取り扱い方が違う。定評のある層も、取引相手との関係の深さも広さも段違いだ。その一つ一つを洗って根茎から切っていく作業に骨が折れたことが慎重になった要因である。

「時間をかけた割に、ぶん殴るには火力のねえ相手だったなァ」

はぁと大きく溜息を吐きながら足を進めていると、ふと、妙な死体を見つけた。女だ。組織に女の構成員など居ただろうか。否、そもそも女にしても身体が小さすぎる気がする。

「てか、あれ生きてません？ 中也さん」

隣を歩いていた立原が同じ方向を眺めて指をさす。確かに肩から背中にかけて、微かにだが上下している。あの様子であれば巻き込まれただけの人間と考えるのが自然だが。

近づいて、おいと声をかける。

すると目の前の少女と思わしき人物はゆっくりと面を上げた。不自然な起き上がり方からみて、肋骨が何本かと片腕の骨が折れているようだ。

桃のような紫のような透き通った色の短髪が揺れる。
長いまつ毛の隙間から覗く黄金の瞳。

日本人離れした容姿の彼女は、開口一番こう言った。



『神様...？』

「は？」

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