80 意識しては揺れる鼓動 ページ6
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赤葦さんと二人で、窓と扉の施錠を確認し、電気を消そうとしたら。
「Aさん」
チャンスを逃さないとばかりに話しかけてきた赤葦さんに、逃げ出したくなった。
けれどそういうわけにも行かず、すっとぼけたように『はい?』と首をかしげる。
「…昨日の夜、黒尾さんと何を話した?」
……あー、もう。
予想は当たり、赤葦さんは一番触れて欲しくない質問を持ってきた。
やっぱり赤葦さんには気づかれてた…。
それでも一か八かでとぼける演技を続ける。
『え?なんのことですか?』
「…………」
『…………』
「…………」
『……あー分かりましたよもう嘘つきませんよ!』
「ありがとう」
ダメだった。
確信を持っている瞳に見つめられるのは苦手だ。
見透かされているようで嫌になる。
『きっと、赤葦さんの想像通りだと思いますよ』
「じゃあ、返事はどうするの?」
『……一応、遠慮しときました』
「一応、ね…」
赤葦さんはゆっくりと私に近寄ると、電気を消そうとスイッチの上に乗せていた私の左手に、そっと手を重ねてきた。
そのまま優しく掬うように握られた手に、心臓の動きがだんだんと加速する。
その時点で私はもう、彼を異性として意識してしまっている。
……いや、意識させられてしまっているんだ。
赤葦さんは私の左手を握ったまま反対の手で電気を消した。
体育館の明かりがパッと消え、辺りが真っ暗になる。
何も見えなくて焦り、瞬きを繰り返す。
けれど外の蛍光灯の明かりのお陰で、すぐになんとなく目が慣れてきた。
「……Aさん」
囁くように名前を呼ばれ、顔に熱が集まるのが分かる。
後退ろうとも思ったけど、体が動かない。
唇が震え、返事すらできない。
もうホント、泣きたくなる。
「俺も同じことを言ってもいい?」
『……じょ、冗談は、やめて下さいよ…』
「冗談だと思うなら、冗談にしていい」
『……、』
赤葦さんは私の手を自分の胸に誘導した。
触れると、赤葦さんの鼓動が伝わってくる。
それに本気だと、分かった。
分かってしまった。
「俺は、Aさんが好きだ」
訪れた静寂の中。
近距離で私を見下ろす赤葦さんの瞳が、私の瞳をしっかりと捉えて離さない。
それに呑気に、猛禽類みたいだな、と思った。
……でももしそうなら。
逃げられない私は、獲物なのだろうか。
そんなことを考えて心の中で自嘲した。
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マニ。(プロフ) - 未確認歩行物体さん» ✉️。この作品もとても面白いです!これからも応援してます! (11月22日 14時) (レス) id: b32654e3a5 (このIDを非表示/違反報告)
reia(プロフ) - 私、占いツクールで布教活動をしているのですが、この作品のシリーズ、とても好きなので布教してもよろしいでしょうか? (2022年3月24日 22時) (レス) id: 0d7a47aa6b (このIDを非表示/違反報告)
未確認歩行物体(プロフ) - mooさん» はじめまして!わーい、たくさん褒めて頂きとても嬉しいです(*´∀`*)こちらこそコメントありがとうございました!( ´ ▽ ` )/ (2021年8月9日 10時) (レス) id: a04ea61aea (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 初めまして、モテ期到来からの各ルートとオマケまで読めて最高でした!ありがとうございます!! (2021年7月7日 16時) (レス) id: 36860c259a (このIDを非表示/違反報告)
未確認歩行物体(プロフ) - きゃーぽんさん» きゃーぽんさん、コメントありがとうございます!完結してから4年経った今でも、この作品を見つけて読んでくださった方がいる事がとても嬉しいですヽ(;▽;)ノお褒めの言葉まで頂き、本当にありがとうございます!! (2021年5月18日 22時) (レス) id: d428059590 (このIDを非表示/違反報告)
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