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――桜の花びらが頬を掠めた。
冬が終わりを迎え、花が狂い咲くこの季節に、銀時は一人花見を抜け出してぼんやりとうろついていた。
小川に流れる薄桃色の花びらを見つめながら酔いを醒ます。ずいぶんと酒を飲んでしまった。
くあ、と洩らした欠伸に乗って、また花が流れていく。
遠くの方で神楽や新八、他にもお登勢達の声が聞こえていた。まだ騒いでいるのかと少々呆れてしまう。
ざっと強い風が吹いた。
まだ肌寒いそれに思わず身震いをしてしまって、これでは酔いが醒めるのも早いなと腕を摩る。
「――…………?」
ふと視線を感じた銀時は周囲を見渡した。
目を回してみても、近くに人の気配は感じられない。気のせいだろうか、と不気味にも思いつつ戻ろうと一歩足を出した時だった。
「…………お前は、」
小川を隔てた向こうに、人が立っていた。
黒く長い髪を激しい風に弄ばれながら、女は口元に微笑を浮かべて銀時を静かに、じっと見つめている。
「久しぶりだね」
その落ち着いた声色に、しかし背筋がぞっと粟立つ。何故か。
切り抜かれたような黒い彼女は、ただそこにいるだけで異様な存在感を放っていた。例え穏やかな表情を浮かべていたとしても。
続いてむっと鼻を刺す臭いに顔を顰めた。Aをよく見ると、彼女の首には一筋の血の跡が薄らと残っていた。彼女が脇に差す刀も、見なくともわかる。何十人と人を殺してきたものだと。
「どうしてここにいるんだ」
「……立ち寄ってみただけだよ。ここに、君がいるっていう噂を訊いたから」
「その右眼は、どうしたんだ」
「ああ、これか」
右眼を覆ったAは、妖しげに口角を引き上げた。
「自分で抉ったんだ」
その彼女の言葉に何の声も出ない銀時は、茫然と目の前の彼女を見つめた。
恐ろしかった。怖ろしかったのだ。もうAはAではなかった。
「ああ、もう時間だ。それじゃあもう行くよ。……また今度ね」
どっと緊張の糸が切れる。Aが音も無く消え去ったからだ。
そして、そこでようやく気づいた。彼女から発されていたのは殺気だった。
「……A」
それは変貌した彼女に掛けられる、唯一の言葉だった。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時