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「――本当に、行くのか」
高杉がこちらを真っ直ぐ見据えて、それから、それから……。
がくりと膝を曲げて、彼は何度も呟いた。何故、どうして、と。
冷たい風が吹く。二人の髪を揺らして、そして一層強い雨の匂いを運んでくる。目を上げたAは、陰りつつある空をそっと瞼で閉じた。嗚呼、静かだ。
松陽が連れて行かれた日の朝も、こんな空だった。いつもと吹く風の匂いが違って、胸の奥が煩くて。吐息は白くはなかったけれど、肌を刺すような寒気だけが襲ってきていた。
そして陽が沈んだ頃、松陽は彼らと共に佇んでいた。こちらを安心させるように大丈夫を言って、すぐ戻るなんていう嘘を吐いた。硝煙の香りが充満するあの場所で、松陽は、そのまま――。
じゃり、と砂を踏む。歩き始めて、そのまま、長い時を過ごした根城を立ち去る。もうここに戻ってくることは二度とないだろう。
そして。
もう二度と
「――……お前も、一度も振り返らないんだな」
その背中が、高杉にはあの人と重なって見えた。
×××
高台の先に、彼らが立っていた。陽は高いのに、そこだけが異様に暗く思えて、その原因は黒を黒で塗り潰した装束を着た連中がいるから。
にやり、と一人が笑った。それは頭領と呼ばれていた男。
「やはり来たか、A。――歓迎しよう、我らが黒狗の衆最強の狗。かつて衆を壊滅にまで追い込んだ事は、この際水に流そう。……さあ行くぞ、お前達」
不意に崖の下を見やる。古寺が遠くに見えて、何かがあるようには思えないけれど、ふと、ああ一つだけ思い残したことがある、と思った。
瓶覗のような、銀色の髪を大いにくねらせた彼のことを思い出す。
――――無理、すんじゃねえよ
強く握り拳を作って、下唇を噛み締める。赤い血が一筋落ちて、地面に染み込んでいった。
銀時を、許せない訳ではない。だって彼は何も悪くないから。彼一人に、全ての業を背負わせておくだなんて、そんなのできない。
「――…………私が、先生の、皆の無念を……晴らすからね……」
ジリ、と、Aの右目が鈍く光った。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時