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雪を払いながら立ち上がって、こみ上げる羞恥心を誤魔化す。もうすっかりAは息を整えていて、微笑みをその口元に浮かべながらこちらを見据えていた。
「……消えちゃいそうだね」
「何だよ、急に」
そんなことを不意に呟いたAに小首を傾げる。相変わらず緩い微笑みのまま、こちらへ手を伸ばし髪についた雪を払った。
視界を覆い尽くす白銀。凍てつくような寒さも、今となってはそう身を震わせるほどでは無くなっていた。頬に触れる手はあまいにも冷たく、けれど壊れてしまいそうなほどに優しい手だった。
A、と呼ぶ。頷いた彼女が目を上げた。
重なった唇は彼女の手と反比例するように暖かい。彼女が倒れた日に重ねた時とは違う、
「……冷たいよ」
「雰囲気も何もねぇな」
うなじに添えた手が冷たかったらしい。文句を零すAにはは、と笑い声を上げた。
「晋助」
「なんだ」
「このまま、どこかに消えちゃいそうだね」
「俺がか?」
消えてしまいそうなのは、お前の方なのに。
その言葉を飲み込んで、Aの頬に手を添える。
俺は男で、Aは女だ。彼女の冷え切った肌を包んで暖めようとするが、きっと、おそらく、この身に流れる温度は彼女へは伝わらないだろう。
「もう夢は見ねぇよ」
川の水が跳ねる。水面を流れる花弁が揺れて沈んでいった。褐色を帯びる赤い瞳がこちらを見据えて、そして何かを呟く。
声は聞こえない。身体は動かない。目の前のAはにこりともせずそこに佇んでいた。
水面は波紋を描く。ぱしゃん、と音が聞こえてはっとすれば、Aが背を向けて向こう岸に足を踏み出していた。
行くな。と唇は紡いだ。彼女はこちらを振り返らない。
――そして、目が覚めるのだ。
Aの手を取る。視線が交わり、何も言わない俺に彼女は小首を傾げた。
「お前こそ、このまま消えるなよ」
この手は、絶対に離せない。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時