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中庭から人の気配がした。誰かいるのかと思って、そっと覗き込むとAが立っていた。
雪が降り続く外は身震いするほどに寒いのに、彼女はゆったりとした着物を着てただ空を眺めている。その後ろ姿に向かって、「何してんだ」と声をかければ彼女はゆっくりとこちらを振り返った。
柔らかく目尻を細めるAが晋助、と紡ぐ。
足元をうっすらと隠す積雪の量に一体どれほどそこにいただろう、彼女の顔は赤い。
「寒いだろ。中、入れよ。火鉢用意してやるから、」
「君もこっちおいでよ。ほら」
美しい"縹色"の瞳。透き通った、何もかもを見通すような瞳。
――――妙に懐かしく思った。
Aの目の色は、そんな色だっただろうか。いや、そもそも、つい最近まで見てきたあれの方が違うものだったような気もする。
そんなことを黙考していると、痺れを切らしたAが不意に近づいてきて腕を引かれた。
足が雪を踏む。素足に対するそれの冷たさは異常で、咄嗟に息を呑んでしまった。
吐き出した息が白い。冷えたAの指先から、自分の肌の温度が伝わればいいのにと思うけれど、それよりも早く体温が下がってしまいそうだ。
ふわりと揺れるAの着物。風と彼女が舞うたびに、ゆらゆらとしてこの目に焼き付けてくる。
嗚呼、綺麗だ。と嘆息してしまう。
Aの微笑みを久しく感じて、これまでの肌を刺す寒さや、足を取られる量の雪などすっかり忘れてしまった。
ばすん、とAが雪を蹴り飛ばす。曇天の空じゃそれを反射させる光はないが、彼女の笑顔を明るく照らした。
白銀の世界で切り取られたような存在感を放つ、赤と黒のAの着物。しかしなによりも、神秘的な美しさの雪景色にも全く引けを取らないAは己の目に激しく主張した。
危ねぇよ、と手を伸ばした瞬間、ずるりと身体が滑る。
世界が反転したような感覚に襲われ、気づけば自分の身体は雪の中に埋もれていた。
間も無くAの笑い声が聞こえてきて、慌てて上半身を起こす。
笑うな、と睨み凄んでみても、彼女には何も通用しない。笑いを堪えたように身を屈めてもすぐに吹き出した。
「この野郎……」
一陣の風が吹く。
巻き上げられた彼女の髪を見て、彼女が幼い頃から知っている身としては、嗚呼本当に、好きだ、と思った。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時