衝動 ページ14
衝動
×××
本当に、たまたまだった。
なんとなく稽古場に向かって、寺子屋の生徒を眺めていた。
時折銀時がちょっかいを掛けてくるから、適当にあしらって。
――そうしたら……。
「いい加減にしろよ!!」
どうしてこんなことになっているのだろう。
いつものように稽古を見ていただけなのに、顔を覚えていない男子生徒に絡まれていた。
正直、面倒臭い。
だから、全てしかと。聞こえてない振り、狸寝入り。
そう決め込んでいた筈なのだが。
男子生徒は酷く憤慨した様子でAに向かって走ると、木刀の先をAに向けた。
「お前がいつも適当に流してんのは知ってるんだ! いつもただぼーっとしてるだけで先生に気に入られやがって!!」
――なんだ。ただの嫉妬か。
くだらない、と吐き捨てるようにAは溜息をついた。これが初めてじゃないが、いざこうして真正面から来られると酷く面倒だ。
稽古場から出ようと剣を抱え直し、立ち去ろうとすると突然襟を掴まれ、床に投げ出された。
痛みに顔を歪め、近くに落ちた剣を拾おうと起き上がり手を伸ばすが、「待てよ」と怒りの声に目を向ける。
「いつも先生に媚び売ってるんだろ!?
――"捨て子"のクセに!!!」
「――…………」
反芻する言葉。
――――血。血、血、血、血血血血血血血血血血。
両手を染める血。着物を染める血。轟く悲鳴、阿鼻叫喚。女の泣き叫ぶ声。男が事切れる音。
一度抜いた剣はしまえない。一度流させた血は流せない。血は血でしか流せない。
……狗だ。狗が来る。ここに。狗がいる。
「ひッ、ひいィ……!!!」
床に零れ落ちる血の雫。生徒の怯える目がAを見ていた。
両手で握った剣がかたかたと震え、今にも、眼の前の子供の首を斬り落とそうとしていた。
「――……A」
酸欠する脳。回る視界。ああ、嗚呼、嗚呼嗚呼。呼んでいる。月が、私を。――
暖かい手が重なる。優しい声は失った理性を徐々に取り除いていく。
「さあ、その剣を離しなさい。教えたでしょう。私情では剣を抜かない、と」
「……そうだったね。ごめん」
剣を抜いたまま、Aは稽古場を立ち去った。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時