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腰を掛けると古びたベンチはギシ、と怪しい音を立てた。
「昨日のこと、覚えてないんだ」
「はい。あの…ごめんなさい」
「別に怒っているわけじゃないよ。でも、ちょっと残念」
「残念とは…」
「だって………いや、これは俺だけの秘密にしておく」
「え、やです!駄目です、教えてください!!」
にやけながら私を見る松川さん。
私、何をしてしまったのか。聞きたくない。でも知りたい。自分が限界まで、潰れるまで飲んだことは実はなくて、いつもはトイレが恋人になるくらいでーーいやそれも限界がきているということなんだろうがーー記憶がなくなったことはなかった。
「そんなに気になる?」
「当たり前です」
「そう。じゃあ、教えてあげる」
そう聞こえたのも束の間で、息が、唇がーー喰われた。触れているのは柔らかい松川さんの唇で、それに触れているのは、私の唇。
何が、何に触れてるのか状況把握するのに時間がかかった。やっと理解したと思えば驚きのあまり、離れようと逃げ腰になれば腰に腕を回され、後頭部にももう片方の腕を回せれて逃げ場を失う。
ちゅ、ちゅ、とワザと聞こえるようなリップ音が二人しか居ない屋上で響く。角度を変えて、何回も、存在を確かめるかのようなキスを落とされる。
じっくりと堪能した松川さんはゆっくり、離れていく。後頭部に回されていた手は腰へと回されて向き合う体制で無言で見つめられる。
私はなんで、私と松川さんがキスをしたのかわからないままだった。
「あの、松川さん……どうして……」
キスしたんですか。
そう聞けば、あっさりと答えは返ってきた。
「好きだから」
声が出なかった。否、何も言えなかった。突然のことで、何が何だか意味はわかるのに理解が追いつかない。
松川さんは見兼ねたのか困ったように笑った。
「ごめん。急過ぎだね。でも、これだけは覚えておいて欲しい。」
俺は、Aちゃんが好きだよ
そういって、もう一度だけ、触れるだけのキスをした。
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年5月9日 19時