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「Aちゃん、いける口なら俺と勝負しようよ」
「えぇ、嫌ですよ。松川さん滅茶苦茶お酒強そうですもん。負け戦なんてしたくないです」
「買った方は明日、社食の幻オムライスでどう?」
「やります」
嫌々と首を横に振って絶対やりませんという顔をしていた私は松川さんの出してきた『幻のオムライス』に表情と態度は一変。
その様子を見ていた及川さんは「早っ」と英と呆れた顔をしている。
「日本酒飲める?」
「無論ですとも。学生時代馬鹿みたいに飲んでいたんんですから。5合は行けます」
「へぇ、そりゃあ楽しみだ」
不敵に笑う松川さんにすこし背筋に悪寒が走った。
これは、もしかしたら乗っては行けない船に乗ってしまったのではないかと不安が脳裏をよぎる。及川さんと英はどうなっても知らんというスタンスでチビチビといつの間に頼んだのか熱燗を口にしながらどちらが勝つか賭けを始めたようだ。
「俺は松川さんが圧倒的勝利に明日のお昼賭けます」
「はあ!?待ってよ国見ちゃんそれはずるくない!?」
「待ってください、誰か私が勝つとは思わないんですか」
すこし怒りを込めて言えば松川さんは喉を鳴らしながら笑い、及川さんと英は顔を見合わせて「だってねぇ」と苦笑いを浮かべた。
その表情に、もしかしたら、と最悪の予想をする。
「あの、松川さん、やっぱり…」
やめます、そう言おうとしたのを見計らったように個室のドアが開いて店員さんが両手に6合の日本酒を持って現れた。
「さて、Aちゃん、ほらまず手始めにお互い3合ずついこうか」
「…………あの、もしかして、松川さんって」
ザルですか、と絶望した表情で聞くと松川さんは酷く楽しうに微笑んだ。
肯定と取った私はやはり最初から乗らなければよかったと後悔したが、もしかしたら勝てるかもしれないなどとポジティブに考え、勢いよく日本酒を喉に流し入れる。
ええいヤケだ。ザルだろうがなんだろうが買ってやる。もう何杯目かもわからずただひたすら飲み続けた。
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年5月9日 19時