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30話 ページ31

手入れを終えた小さな人は、光の粒に姿を変えて消えていった。

「どうだ国広! これでもっとかっこ良くなっただろう」

和泉守様は、刃こぼれすら無くなった刀を堀川様に見せつける。

「兼さんはいつでもかっこ良いよ!」

堀川様は、刀と和泉守様を交互に見比べて上機嫌に声を張り上げていた。


僕は、その場を立ち去ると目当ての人物を探し始める。視界の端に、青い布を捉える。

「それでですね、主君が」

「あなや、主にそのような力があるとは」

三日月様は、秋田様と話し込んでいた。
途切れ途切れにしか聞こえないが、僕の話をしているようだ。
気になるが、僕には他の用がある。
拳を握りしめて、声を喉から引っ張り出す。

「あの、三日月様」

僕の届きそうもない小さな声が響いた。



三日月様は僕を視界にとらえた。瞳が大きく見開かれる。
その瞬間、三日月様が僕の視界から姿を消し去った。

「主よ、どうかしたのか」

僕の目の前に三日月を映す瞳が光り輝く。
僕は思わず後ずさる。三日月様が首を不思議そうに傾けた。

「……先程の言葉は、どういう意味ですか」

「すまぬな、気を悪くしたか?」

三日月様は、心配そうに眉を下げた。
僕は首を横に振る。震える声で、心の中を吐き出した。

「僕は、信じられるような存在なのですか」

「……俺たちの主だからなぁ」

三日月様の言葉は、的を射ていなかった。
ここを追求しようと僕は口を開いた。

「僕を主と認めるのが余りにも早すぎませんか」

先程の言葉よりも、強い言葉を三日月様に浴びせる。
三日月様は、黙って俯いてしまった。


「主殿!」

一期様が僕を叫ぶように呼ぶのが聞こえる。三日月様が勢いよく顔を上げた。
荒い足音が、僕の背後で止まった。

「主殿……」

「大和守か」

一期様は、しゃがみこみ咳き込んだ。声が掠れているのか、言葉が続かない。
三日月様が目を細めて呟いた。
一期様が小さく首を縦に動かす。口を開いたが、出るのは咳だけだ。


三日月様が一期様の背を、ゆっくりとさする。
一期様の口からようやく言葉が飛び出た。

「……大和守殿が暴れております」

僕は石像みたいに固まる。三日月様は、表情も変えずに続きを促した。

「何が起こった」

一期様は、固く拳を握りしめた。金色の瞳に光を宿して、三日月様をまっすぐ見つめる。

「黒い墨のような物が、大和守殿の中に入っていきました」

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作者名:うたた寝する三毛猫 | 作成日時:2022年3月9日 11時

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