20話 ページ21
金属同士がぶつかり、互いを折らんばかりの勢いで押し合っている。
三日月と敵である時間遡行軍の一人は、激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。
「じじいには、ちときついなぁ……」
先に音を上げたのは、三日月だった。
三日月の言葉には、疲れと焦りが浮かんでいた。
どうやら、劣勢に立たされているようだ。
「じゃあ、さっさと降参したらっ!」
三日月と向かい合う敵は、汗一つかかずに三日月の持つ刀を強く弾いた。
どちらが優勢かは、一目瞭然だった。
三日月は、刀を弾かれた勢いで後方に飛ばされた。
だが、すぐさま体制を立て直して着地をすると、口を開いた。
「それは、出来ぬなぁ」
足が、竦む。
三日月は口には出さないものの、目の前の敵に対して激しい恐怖を覚えていた。
三日月には、痛いほど分かっているのだ。
己の方が、相手よりも弱いという事実を。
「手が震えてるよ?」
冷静に指摘をしてくる敵に対して、三日月は何も言い返さなかった。いや、言い返せなかった。
なぜなら、それは嘘ではないからだ。
三日月の手は、戦いを拒むかのように震えていた。
「ねぇ、降参したら?」
甘い言葉で敵は三日月を翻弄した。
その様子は、三日月の様子を見て楽しんでいるかのようにも見えた。
三日月が、どう返事をしようかと考え始めた。
その時だった。
「三日月」
声を出すのも辛そうな人物の声が、三日月の耳に届いた。
三日月が声がした方へと振り向けば、痛む体を壁に預けた和泉守が、三日月を見つめていた。
全てを見通しているかのような瞳に、三日月の目は釘付けになった。
「……そんなに重く考える必要はねぇよ」
三日月の手の震えが、止まった。
和泉守は目を細めると、こう続けた。
「折れないように、生き残る。それだけを考えろ」
和泉守の言葉は、冷たい滝となって三日月に降り掛かった。
この時、やっと三日月は何を優先に考えなければならないのかを、理解出来たのであった。
三日月の肩から力がどっと抜けて行った。
少し、考えすぎていたのかもしれない。と三日月は冷静に己を分析した。
その分析のおかげで、三日月は己にとって最も大切なのは、折れずに時間を稼ぐという与えられた役割だと気が付けたのである。
「オレ達の準備が整うまでは、折れるんじゃあねぇぞ」
「……あいわかった」
三日月は、短い返事を返すと踵を返した。
そして、目の前に突き出される敵の刀を己の刀で弾いたのだった。
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作者名:うたた寝する三毛猫 | 作成日時:2022年3月9日 11時