片耳うさぎ ページ7
若草色のカーテンの隙間から陽光が漏れてくる、清潔感のある部屋。ここは医務室代わりに使われている部屋なのだが、それをこの少年は知らない。窓際のベッドで半身を起こす彼は、不安げに鼻と耳をぴくぴくさせていた。半袖のシャツから覗く両腕は包帯が巻かれてあり、首にも湿布が貼られてある。――そして何より、彼の頭部からぴんと伸びるウサギ耳は右側にしかない。左側には、かつての姿を忍ばせる、耳の根元部分が残るばかりだ。
軽い軋みの音と共に扉が開く。同時に、彼の耳もひくりとそちらを向いた。
「起きていたのか」
「はい、おかげさまで」「昨日はありがとうございました」「ところで、相談したいことがあるのですが――」
彼が言おうとしていたことは山ほどあった。けれど、唇がわずかに動いただけで声は出ない。目は、部屋へ入ってきたユアン――の持っている温かそうな料理だ。思えば彼は、ごみ箱から拾ったリンゴの芯以来、何も口に含んでいなかった。それもいつのことだか分からなかった。
そんなケントの様子を察したのか、合点がいったように、ああ、とユアンは唇の隙間から声を漏らす。そして、柔らかな表情を浮かべつつベッドへ歩み寄った。
「先に食え。スープから、ゆっくりな」
そう差し出されたプレートを、引ったくらんとばかりの勢いで少年は受け取る。まず器に口をつけ、そのまま一気に飲み干そうとする――が、あまりの熱さに慌てて口元から離し、プレートに戻す。パンを千切らずにほおばり、喉を詰めそうになりながら飲み込んだ。そこで、ようやくスプーンの存在に気づく。悩むように触ったのち、グーで握りしめた。そのまま、不安げにユアンを見る。
「こう持って使うんだ、ほら」
ユアンが正しく持たせてやると、照れ半分申し訳なさ半分、といった微妙な表情を浮かべながらスープを掬った。温度と悪戦苦闘しながら、一口、二口とすする。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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