そして、悪夢の続き(四) ページ48
ああ、どうしてやろうか。
上る陽を背に立つユアンは、鈍く瞳を光らせた。先ほど炭にされた針葉樹の葉が、音もなく地面に落ちる。一度体勢を整えなおしたユアンの靴につぶされ、地面に真っ黒な模様が広がる。
そして、そんな炭ほど純な黒ではない、いろいろな色を混ぜた結果生まれたような黒が、ユアン・ブルーフォードの中にも広がっていた。心臓が血液を全身に送るたびに、どくり、どくりと。
背後から襲い掛かって、そのまま喉笛に食らいついて一思いにやってしまおうか。きっと、予想だにしていない展開に大きく目を見開くに違いない。――いや、ぬるいか。わざわざ一瞬で苦痛を終わらせてやる義務など、こちらには全くないというのに。
だからまずは、横のトーカーからやったほうがいいだろう。奴も、あの侯爵の下で何人も、何人も、何人も殺してきたに違いない。なぜならあの雷は――そうだ。そうなのだ。あの、俺より生きるべきだった少年を焼き殺したもの。――だから、ひとまずもう話せないように舌でも引っこ抜いてやればいいか。そうすればトーカーなど、ベアマンにとって怖れるに足りないただの人間だ。
その後で侯爵は、そのまま爪を突き立ててはらわたでも引きずり出してやるか? それとも、一度全身の皮膚をずたずたに切り裂いてやろうか。トーカーやプロトの皮膚は、容易く破れてしまうのだ。
ベアマンのように、執拗に切りつけなくとも。鞭うたなくとも。彼の言葉を借りるなら、「物足りないほどに」。それを教えてくれたのは、まぎれもなく彼なのだから。
決めた。まずはトーカー。羽交い絞めにしてから一瞬、その舌を二か三に切り離す。その出先でおそらく向こうはひるんで行動に出られないに違いない。
そして侯爵。――幼い時は恐怖の象徴であったが、いま改めて見てみれば、その背中のなんと小さいことか。腕の、足の、なんと細く枯れ木のようだろうか。そして、ここはもうあの狭くて暗い小さな地下室ではない。俺も、幼く力のない子供などでではもうない。そう実感すると――彼は、自分の過去が何か滑稽なもののように感じた。いまであれば、刹那の間に蹂躙できる相手に、何を、あんなに、怖れていたのか!
そう、今にも走り出そうと、身体を縮めた瞬間だった。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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