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そして、悪夢の続き(三) ページ46

「ごきげんよう、名も知らぬ皆々様……と言っても、こちらは大事な大事な子供たちを奪われて怒り心頭なんだが。それで大方一匹壊してしまうところだったよ。ダメじゃないか、一匹だけに押し付けるなんて。みんなでかわりばんこにしないと死んじゃうよ? 追いていっちゃった君たちのせいで」

 悪いことをした生徒たちを咎めるような声色で侯爵は言う。彼は眉を下げながら、橙色の瞳を細めた。彼の足元からは、薄く長く、不気味に影が伸びている。

「ドルー!」
「ちょっとケント! 引っ込まなきゃ!」

 ルカが制止する間もなく、馬車の幕の向こうから臭いを嗅ぎつけたケント、そしてそれを止めようとしたサラが顔を出す。サラの方は本末転倒の行為をしてしまったことにより、やっちゃった、と目を閉じて肩をすくめた。
 まずい、これで言い逃れが出来なくなってしまった。
 先ほどから切り抜ける方法を模索していたルカは、それを表情に出さないように気を付けながら、しかし確かに狼狽する。
 ――唯一救いなのは、侯爵はユアンの存在は感知していないようだ、という点。最悪、彼に任せることもあるだろう。もともと――その相手が侯爵になる、というのは想定外だったが――直接戦闘をすることはすでに想定していた。
 けれど、一つの懸念材料は。
『そのアクロフ侯爵は、かつての俺の所有者なんだ』
『親友も含めた俺以外の全員が、みんな死んだ』
 馬車で侯爵邸に言っている途中に漏らした、彼の言葉だ。――つまり、彼にとってこの侯爵とは、かつての恐怖の対象であり、復讐相手なのだ。
 万が一にも、トラウマが起こって体が動かなくなり、侯爵を止めることができなかったら? ――もしくは。
 やりすぎてしまったら?
 子供の時ならいざ知らず、いまのユアンは立派な成人だ。そして、成人のベアマンの腕力は、他の人種では遠く及ばない。さらに、彼はオオカミのベアマンという、戦闘に特化した種族でもある。侯爵の意識がこちらに向いている今、不意打ちで彼の意識を奪うことなど、ユアンにとっては朝飯前だろう。――しかし、そんな彼が理性を失って復讐を実行するとしたら、その侯爵は形も残らないかもしれない。
 ひどく痛快で刺激的な結末ではあるかもしれない、が。

*→←そして、悪夢の続き(二)



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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月23日 23時

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