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何者。
そう思ってとにかく起き上がろうと頭を上げる。しかし同時に、今度は左から側頭部に一撃を叩き込まれた。今度は右に転がりながら、蹴飛ばされる石とはこんな気分か、と彼女は眉をひそめた。うっかり口を開けてしまっていたため、口内もざっくりと切れた。たちまち、血の味が口中に広がり、鼻の奥まで鉄さびのにおいがした。
けれど、あの靴。
何故、という問いは今はいい。脳は中心からガンガンとうるさいし、すこし視界もおぼつかない。おそらく原因はし先ほどの衝撃だけではないだろう。ふつふつとだんだん脳に熱が加わっている気がする。でも仕方ない。これは仕留めそこなった自分の責任だ。
「お、よく飛んだな! 今までじゃ一番かもしれねえ。しかし、置いていくとは野暮だな騎士様よぉ。……もっと、やりあおうぜ?」
嗜虐的な――あの男の声だけは、赤い瞳だけはやけに輪郭がくっきりとしていた。――けれど瞬間、また視界がぼやけて赤くなる。本当だったか、怒ると目の前が真っ赤になるとは。
やはり、畜生の味方をする人間は、生かしておくべきではなかった!
「『That’s one small step for man, one giant leap for mankind.』」
ゆらり、とやや不安定に立ち上がった後、おおよそ彼女らしくなく、姿勢の定まらないまま言霊を発動する。補足可能な範囲まで詰め寄り、仕返し、というように少し前にとらえた右の脇腹めがけて剣を横になぐ。しかし到達する前に腕で払われ、一度後退を余儀なくされた。緩んだ土の上で滑りながらも器用に止まり、その先でシトをねめつける。
「――化け物か何かか、その生命力は。実は畜生か?」
さしもの彼女も忌々し気に吐き捨てた。そうしながらも少し上体をかがめ、少し傾いだ構えをとる。
ああ、そうさな、と男――シトは自嘲気味に笑った。止血のために割いて腹に巻いた肌着は、もともとの赤を余計に染めている。邪魔だ、と彼がコートを脱ぎ捨てると、傷跡だらけの身体に銀のプレートがついたネックレスがよく目立った。
「俺も、人間畜生なんかじゃなく、ベアマンだったら、と幾度となく思ったさ」
そうして再び、二人は相対した。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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