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もともとユアンは夜目が利く――というより、見えずとも優れた嗅覚により、ある程度の推測はできる。そろり、とクマの彼のおかげでだいぶ広がった抜け穴のあたりに小さな人影が見えた。取り残された者はいないか、今まで確認していたのだろうか。黒の瞳は、光を取り入れようと大きく、丸くなっている。四つん這いになって、勢いよく彼が穴を通り抜けようとした瞬間。
 ひょう、と空を切る音がした。
 何の気配も持たぬ音だった。さらに続いて、同じ二音。
 身の危険を感じたのだろう。当然ドルーの動きが一瞬、まばたきするほどの間固まってしまった。
 そしてそれが、明暗を分けた瞬間だった。そのまま駆け抜けていれば背後であっただろう。しかし、時すでに遅し。矢は彼の右手の前の地面に刺さる。ついで、穴をふさがんと二本が抜け穴の前へ。そしてさらに、ひょう、と。最後の一本は、それらの間を縫って、ちょうどドルーの耳先をかすめてった。まるで、いつでも射止められる、と言わんばかりに。

「ドルー!」

 音に反応して、ケントは先ほどまでの困惑は吹き飛んだ様子で叫んだ。そのまま床を蹴って跳躍した。ウサギならではの力を持つのだ。座っている子供の頭を跳び越すことなど、どうということはない。皆の頭の上と馬車の天井の間をちょうど抜け、そのまま外へ。

「止まれ!」
「――な、」

 腹部に腕を回され、ケントの身体はユアンの腹の上へと受け止められた。なんで、と言おうとした、が――聞かずとも理解できた。我を忘れていた彼には聞こえなかったが、あの矢の飛ぶ音はあったのだろう。彼がちょうど舞い降りようとした場所に、やはり矢が刺さっていた。きっと、ドルーに向けられたものと同じ。あのままであれば、急所は外したとしても、腕やら足やらは貫かれていたに違いない。
 でも、とケントはもがいた。理解はできても、感情がついていかない。
 ぼくは、ぼくはドルーのお兄ちゃんなのに。
 それが分かっているからか、先ほど彼を掴み止めたユアンも離さない。感謝しなければならないことは分かっているのに。ありがとうございますって。じたばた勝手に暴れる足が、幾度となくユアンを蹴りつけたが、それでも彼の腕はピクリとも動かない。
 ――諦めきれないのは、ユアンも同じだった。足や胸に無遠慮に当たる足や拳は、いくら子供のものといえど、ベアマンの全力暴走だ。かなり痛い。
 彼の気持ちが理解できるが故、心も余計に。

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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月23日 23時

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