検索窓
今日:1 hit、昨日:44 hit、合計:15,379 hit

ページ33

けれど数は数、というところで、六人も増えた馬車は少し手狭になる。悪い気分にはならない狭さ。
 これで全員か。ユアンが言おうとした矢先、塀の方からうめき声のようなものが聞こえた。うんうんと唸った後――気合の入った怒り声、何かが崩れる音。
 あちゃあ、と言いたげにサラは片手で目を覆った。そんなことはつゆ知らず、音の主はどすんどすんと大きな音をたてながらこちらへやってくる。

「悪ぃなケント、あの時はあんなこと言っちまって! おまえはすげえ男だ!」

 からっとした大きな声で言いながら、それは馬車に乗り込んできた。重量のせいか、彼が尻を据えた所から木のきしむ音がした。

「声下げなさいよアンタ! このバカ」

 そうしてサラに小声で怒鳴られたのは、一足遅れてやってきたクマの少年。縦横含め大人と遜色ないサイズ感だが、肩をすくめてやり過ごそうとする、様子はまだ幼い。へへ、と眉を下げながら彼は頭をかいた。威圧感のある見た目だが、根は善良な少年のようである。
 気を取り直して、小声でユアンは言う。

「これで全員か?」
「いいえ、ドルーと、あと……」
 
 そういえば、あの子の名前は? ふとケントは言い淀む。夕焼け色の瞳も、あの不思議な空気も何もかも思い出せるのに、彼女の名だけが思い出せない。そもそも、ぼくはあの子の名前を、聞いたっけ。

「あと、誰がいるのよ。ドルー君だけでしょ。おおかた、こいつが塀の抜け道をふさいじゃったから遅れただけでしょ。大丈夫、大丈夫」
「いや、いただろ。さっきぼくはそれを言おうとしたんだ。リーダーは君じゃなくて、ほら、あの瞳が夕焼け色の――」

 ケントが言うと、皆は一斉に首をひねる。「いたっけ?」「……さあ」と、口々に言う声が聞こえた。どういうことだよ、とケントは頬をつねってみるが、どうやらこちらは現実で確実らしい。ならば、あるいは。
 困惑しているのはケントだけではない。とにかく彼からの情報を信じて計画立案をしたユアンとルカも同じである。一度互いに目を見合わせた後、とにかく「ドルー」の方を、とユアンは暗闇へ目をやった。

*→←合流



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (82 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
31人がお気に入り
設定タグ:言葉は刃 , ファンタジー , バトル , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月23日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。