第一章_悪夢とその続きの国で ページ4
『いいか、お前は生きろ。お前なら生きられる。だって、だって――ユアンは、俺らの中で一番頭いいもんな!』
――違う! 頭がよくたって意味がない。それを行動に移せないのなら意味がない。ほら、また俺は、こうやって。
もう何百回と見た夢から、ユアンは目を覚ました。ベッドは気化熱でひんやりと涼しいのに、体は汗でじっとりとしている。ぽたり、と暗い色の髪の先から雫がしたたり落ちた。
目の前にあるのは、見慣れた自室の壁であるはずだ。けれどそこにはなぜか、親友の姿が浮かぶ。最後に彼が見た親友の姿。追っ手の喉笛にかみつくと同時に、放電をまともに食らって、二度と動かなくなった、親友の姿。
彼は吐き捨てるように何かを呟いたのち、汗を洗い流そうと部屋を出た。
*
「あらおはよう。今朝も随分なお目覚めだったみたいね」
着替えを済ませたユアンが出会ったのは、ここで寮母のような役割をするニーヤ。女口調で喋っているが、彼はれっきとした男。白シャツから覗くしっかりとした鎖骨がそれを如実に示している。紫紺の瞳がぶっきらぼうにユアンを眺め――すぐに視線は元に戻る。今は皆の朝食を作っているらしい。一度止まった包丁を持つ手が、また規則的に動き始めた。
「何か手伝うことはあるか?」
「大丈夫よ。それより、あんたのその爪じゃろくに調理器具も持てないでしょ」
言われてみればそうだ、とユアンは自分の手を見る。
生まれながらに獣としての特徴を持つ者、ベアマン。そう生まれついた彼には、指には鋭く長い爪に、頭部にはオオカミのようにぴんと立った耳。これらにともなう、ずば抜けた身体能力。これらはすべて、今まで幾度となく彼を窮地から救ってきた。
――けれどこの国では同時に、それらは侮蔑の象徴であった。
ここ、リンガル王国はかつて平和な国として有名だった。新史史上初めて革命を成し、表面上とはいえ、すべての人種が平等に扱われる数少ない国として。
しかし、それはすでに昔の話。契機は、平和政策を推進していた前王と前王太子がベアマンに暗殺されたこと。その情報は瞬く間に国中に知れ渡り、他種族からのベアマンへの目は自然と冷たくなった。
そして偶然か意図的にか。次に王位に就いた第二王子――現王は、ベアマン排斥主義者であった。そいて風潮と王の方針はぴったりと合致し、この国が立派な差別国家となるまでそう時間はかからなかったのだ。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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