* ページ28
――どういう意味?
言葉の解釈をしようと、アズサの頭がまた一部「こちら」に戻る。しかし同時に、ひどく冷たい風が相手の方から吹き付けた。かがり火が一挙に消え、あたりは真っ暗になる。
一度大きく後退した相手の鎖骨あたりに、鈍く、白く輝く文字が見えた。同じく「変革せよ、変革を迫られる前に」と。――「言霊」だ。過去の偉人から残された言葉たちが、「刃」となったもの。自分の身体に刻まれた言葉をひとたび唱えれば、人を傷つけ、あるいは救う不思議な力を発動する、「トーカー」と呼ばれる一部の人間のみが持つ特殊な刃。相手は、それを使って見せたのだった。初手から手の内を明かしてくる以上、加減をするつもりはないらしい。
頭が冷えてちょうどいいくらい、とアズサはほくそ笑む。冷気はアズサの体温を奪っていったが、同時に頭の中でうごめいていた思考も吹き飛ばしたのだった。
そうして冷静に見てみれば、相手が距離を取ったのは何も次への準備のためだけではない。追撃の体勢を取りこそしているが、浅い呼吸のせいで肩が上下する分完璧な状態とは言いづらいし、肌は白を通りこして青味がかっている。
次は下腹あたりを狙って刃が飛んできたが、身体を少しだけひねって容易くかわすついでに足払いを仕掛ける。軸をぶれさせないまま動くアズサに対し、相手は回避したものの身体の芯が大きく傾いだ。アズサはそのまま弓矢を背負いなおし、腰から剣を抜く。
もう二度とだって先手は取らせない。そう決意を込めながら。
ようやく体勢を整えつつあった相手に、そのまま利き足で踏み込み、腰をひねって大きく一斬。回避が不十分でのけぞったところに、腕を返してもう一度。今度は、向こうが完全に後手に回っていく。間一髪で、のけぞりつつ飛んだ。ダン、と大きい着地の音に余裕はない。
そうして遠くまで飛んだ彼女には体勢のたの字もないし、何より瞳の焦点が合っていなかった。強力な能力である分、消耗も激しいのだろう。
けれど、そんなのは関係ない。いくら心を乱されようと、体調が万全でなかろうと、
戦場では誰も待ってはくれないのですよ。
言わずとも問題ない、とアズサは剣を持ち直す。
31人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ファンタジー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ