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隷属者達の相対 ページ26

貴族邸の警固開始から、三日が経った。周辺の哨戒をするアズサの頭上には、明日新月となる細い月は儚げに輝いている。
が、突如として吹いた強い風がもたらした厚い雲に隠され、夜がまた一段と深くなった。ざあ、と木々がざわめく音が響く。麓の夜は、街の夜よりも冷えるように感じられた。
 ――あまりにも、静かだった。「今は高波の前の凪の時間」と思い続けて三日。いっそ、高波なんて来なくてもいいけれど――そう思うと、胸がざわつくのはどうしてだろうか。
 静かであると、どうも頭の中が騒がしくなって仕方がない。集中、と振り払ってアズサは周りのありとあらゆる気配に五感を働かせる。
 ざわめく木々。等間隔で置かれたかがり火の下では、芝の間に砂利と土が見え隠れしている。そこには、人影一つだって――。
 動いた。
 二つ先と三つ先のかがり火の間。すっと高く伸びていたそれを、アズサの目はしかととらえた。人であることには間違いない。背の高さ、そして動きと勘から彼女は確信した。ただ、マントか何かで全体像が覆われており、詳細は確認できない。シルエットから察するに、中身は女性、または小柄な男か。どちらにせよ、アズサが苦手とするようなパワー型の相手ではなさそうだ。また、動きには全く癖がない。なんとなく貴族に近い動きな気がするが、それにしても――お手本通り過ぎるというか、無機質な感じだった。
 そう連想する間に、アズサの視界に再び「それ」が入る。これなら、弓矢か「言霊」を使えば十分射程内だ。
 一旦思考を置き、鋭く「それ」を視線で貫いた。

「止まれ。武器を置いて顔を出せ。そして、名と身分を開示しなさい」


 つがえた矢を、まずは「それ」の足元に向ける。アズサとしては、相手がベアマンであっても抵抗組織の者であっても、無為に傷つけたくはない。かといって、容赦をして牙をむかれてしまうのは、王国が騎士として名折れというもの。だから、まずは機動能力を奪う。一度で仕留められたらいいかもしれないが、残念ながら彼女は強弓引きではない。だから、二の矢、三の矢も視野に入れて狙いを定めた。

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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月23日 23時

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