首領 ページ47
「ただいま戻りました」
Aは首領の部屋へ入っていくと、あくまで事務的に申し上げる。
中也さんは気を使ったのか、はたまた気恥しいのか、執務室へ向かわれた。
「ご苦労」
そう、父と娘であっても、組織では上司と部下だ。
「この時計は、君が持っていくといい。好きにしなさい」
首領はAに時計を渡した。
「……それで、君はいつから気づいていたんだね」
首領のお顔は心なしか和らいで見える。
「学校へ通っていた時あたりでしょうか……」
その辺は、A自身にもよく分からない。
何故今更自分が実の父であると教えなさったのかは、おそらく、Aの「幹部昇進祝い」といったところだろう。
自分が何者であるか知ってしまえば未来永劫──たとい首領が何らかの原因で亡くなったとしても──組織から抜け出すことは無い。
幹部でも組織を抜ける人もいるのだ。これは裏切るなよという首領のメッセージなのかもしれない。
これが、Aが盗聴器を仕掛るという行動の意味するところだ。
「やはりそうか」
首領は独り言のようにそうおっしゃった。
「Aは、自分と母親をを他へ預けた私を、それでもなお父親と思えるのかね」
「ええ、事実は事実です。……それに、貴方のほうがよほど父親らしかったと思っております」
「そうかな。父親、基、親というのは無償の愛を与える存在だ。小吹君──亡くなった君の育ての父だね──は、そういう点でよく父親をやってくれたと私は思っているよ」
異様な光景だ。ポートマフィアの首領が親とは何たるかについて語っていらっしゃる。
「首領であるかぎり、表立って君に無償の愛を与えることは、君を特別扱いすることになる。それは組織の長として許されることではない。だからね、私は父親失格だと思うのだよ」
首領は自嘲的な笑みを浮かべていらっしゃった。
「それを許すというのが、娘から父への無償の愛というものではないのですか」
Aは穏やかに笑った。月明かりが広い窓から差し込んでいた。
葡萄酒のような深い赤の瞳が真っ直ぐに首領へ向けられていた。
マフィアの血の色だ。
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さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります！もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました！ (2017年5月24日 0時) (
レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い？文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/
作成日時：2016年12月21日 8時
