星月夜 3

140 ページ40

　
　
　
そこまで考えて、もしかしてと思う。


「血液パックか……？」


血液パックを売っているのは人間だ。金になると分かればどんなものでも売る。

もちろんそれを責めるつもりはない、おかげで助かっている仲間は沢山いる。


だが抑制剤と違って信頼出来るかと言われたらそうではない。

売る方も買う方も、お互い顔は知らない。だが売る方は買う者の情報を持っている。
血を売るより高い金で買い取ってもらえるなら、簡単にその情報を売るだろう。


飛鳥居さんはきっとその事を知っていた。
だから俺が使わないと分かっていても、わざわざ忠告したんだ。


犯人は間違いなく純血だろう。

だが飛鳥居さんに聞くことは出来ない。
きっと俺に忠告するだけで相当なリスクを背負っていたはずだ。だから絶対に誰にも言うなと言った。


血液パックの購入者情報が洩れていると分かったところで、それを仲間に教えることは出来ない。

すでに情報は渡っているだろうし、俺を信用してくれた飛鳥居さんとの約束を破るわけにはいかない。


何も伝えられない罪悪感と、確実に近づいている死への恐怖に押し潰されそうになる。


「ミツ、大丈夫？」


遠慮がちに扉の前から掛かる声にはっとする。

思っていたより長い時間入っていたらしい。


「大丈夫！ 悪い、すぐに出る」
「大丈夫ならいいんだけど、なかなか出てこないから心配になって」
「心配させてごめん。大丈夫だから」


扉の向こうで、うんと声がして遠ざかっていく気配がした。


玉森の優しさはすごい。

普通だったら気味が悪いはずの俺に変わらず接し、いつも甲斐甲斐しく体調を気にかけてくれる。

他のメンバーだったらなんて想像も出来ないが、今まで知らなった玉森の顔だった。


このまま玉森の優しさに甘えていいのかという思いと、じゃあ他にどうすればいいのかという答えのない問いをずっと繰り返している。


考えても仕方がないことは考えなければいいのに、そんな風に割り切れない。



考えた分だけ重たくなる頭と心を抱え、風呂から出た。

141→←139

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す