アオハル返せIV【稲荷崎】 (ページ20)

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午後から白雪姫の上演。

私はナレーション。小人に見えない小人役の侑くんが私の頭に肘を置いて聞いてくる。

「サムとなんかあったん？」

『いや、それ私が1番聞きたいんだよね。身に覚えなさすぎて』

そう言うとふーんと興味なさげにその場を去った。お前、聞いといてコノヤロウ。

最終確認をしている花井ちゃんと治くんを見る。美男美女、眼福。女王様役のサナも悪そうで笑える。それを伝えたらラリアットをかましてきた。嘘でしょ信じられない。

ブーと開演のブザーがなる。

『むかしむかしあるところにーーー』

劇の中盤、というかほぼ終わりかけ。王子が姫を見て一目惚れするところ。

「ああ、なんて美しい姫だ」

イントネーションは関西弁なのに言葉は標準語でミスマッチすぎて笑えると同時に、並んだ2人が絵になりすぎて言葉を失った。

「おい、ナレーション」

侑くんにポコンと台本で頭を叩かれて、自分のセリフであることに気づく。

『そこに7人の小人が戻ってきました』

侑くんは私に持っていた台本を押しつけて舞台に出ていった。

いよいよクライマックス。盛り上がりは最高潮。どこからとなくキスコールが起こる。まあ治くんはファンサとかしないし大丈夫だよねと鷹を括っていたら。

ーーーした。

あまりの衝撃に後ずさるとその後ろはちょっとした2、3ある階段で為す術もなく後ろにコケる。倒れるし治くんのキスで頭は混乱しているもののセリフ言わなくちゃ、ラスト締め括らなくちゃ、と思い出す。

その体勢のまま用意されていたセリフを言う。

『姫は眠りから醒め、2人は結婚し仲良く暮らしましたとさ』

なんとか劇は大成功に終わった。しかしながら私のモヤモヤは増えていくばかり。