苦労の末。 ページ44
鼻がツンとして、目頭が熱くなる。
「…遅いんだよ、バカ」
「…ん、ごめん」
「…ラブレターのことだって、言ってくれたらよかったのに」
「それも謝る。からかうの、楽しんでた」
国見の手のひらの上で転がされ続けた私は、川を流れる丸みを帯びていく石のように、もう棘なんてとっくに消えていた。
遠回りをしすぎたんだ、私たちは。
私を抱きしめる腕を解いた国見が、そのまま私の肩を掴んで自分の方へ向かせる。
「A」
本当に、こういう時だけ名前で呼ぶ彼には、心を透視されているのではないかと思ってしまう。
「こっち見て」
ゆっくりと顔を上げると、国見はいつもの無表情ではなく、心なしか穏やかな表情をしているように見えた。
「俺と、付き合って」
顔が、赤らんでいて。
カーディガンの袖で口元を隠そうとする国見を、私は慌てて阻止する。
恥ずかしいのはお互い様なのだと知れば、怖いものはなくなる。
私は口元がだらしなく緩むのを隠すように俯いたのち、ゆっくりと国見の背中に腕を回した。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
静かにそう言うと、国見もそれに応えるように私の背に腕を回してくれた。
「…A、意外と細い」
「ちょっと、デリカシーない」
「だから、大事にしようと…思イマス」
「…ハイ」
国見が私を抱き寄せる力を強めたから、少しだけ苦しくなって、つっかえながら掠れた声で彼を下の名前で呼ぶ。
「もう少しナチュラルに呼べないの？呼ばれるこっちが恥ずかしいんだけど」
「う、うるさいな」
「まぁ、それはそれで可愛いけど」
ふ、とからかうように笑った国見に、私は緩んだ腕から抜け出して、負けじと国見のネクタイを自分の方へと勢いよく引っ張る。
「…っ」
ネクタイを引っ張って顔を近づけたはいいものの、これからどうしようと内心焦りが生じて視線が泳ぐ。
「で、どうするの」
察して、なんて懇願するように視線を絡ませたが、意地の悪い彼がわかっていてそれを認めるわけがない。
私にとっては何もかもが初めてで、どうするのが正解かなんて皆目見当もつかない。
だから、自分の欲に身を任せるしかなくて。
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小鈴(プロフ) - 楓鈴さん» コメントありがとうございます！そう言っていただけて本当に嬉しいです！パスワードはメッセージにてお送りさせていただきますのでご確認ください！ (2022年8月18日 15時) (
レス) id: ae1e2047a9 (このIDを非表示/違反報告)
楓鈴(プロフ) - 小鈴様の作品どれも面白くて一気読みしてしまいました(笑)素敵なお話、ありがとうございます。その…恋愛保護方針論の小説を読みたいです…！パスワードを教えて下さいませんか。コメント失礼しました。 (2022年8月6日 0時) (レス) id: 20d25d3656 (このIDを非表示/違反報告)
小鈴(プロフ) - 夕月さん» コメントありがとうございます！古い作品の中からわざわざ読んでいただき嬉しい限りです！パスワードはメッセージにて送らせていただきます！ (2022年7月23日 0時) (レス) id: ae1e2047a9 (このIDを非表示/違反報告)
夕月(プロフ) - こちらの作品や小鈴様の他の作品を拝見して今更ながらファンになりました。2年以上前の作品にはなりますが、「恋愛保護方針論【HQ】」も拝読したく、パスワードをお教えいただけないでしょうか。このメッセージに気付いてもらえますように。 (2022年7月21日 11時) (レス) id: 2778bc399a (このIDを非表示/違反報告)
小鈴(プロフ) - 月花さん» コメントありがとうございます！お返事遅くなってしまったので、まだ見られているかわかりませんが、パスワードをメッセージで送らせていただきますね！ (2021年11月4日 19時) (レス) id: 3ef1db8aa1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小鈴
| 作成日時：2019年12月3日 22時
