不安の再浮上 ページ26
―――浮かれていた。
国見の気持ちが自分に傾きつつあるのだと、完全に浮かれていた。
悪いことは立て続けに起こるのに、良いことは続かないものだ。
でも悪いことがないと幸せだと感じることはないわけで。
人生上手くできているなと、しみじみ思った。
「お前、なんで最近俺のところに来るんだよ」
ここ数日、廊下に金田一を呼び出して休み時間を潰すのが日課になっていた。
「なんとなく」
休み時間の度、教室を覗いて手招きをする私の元へ、金田一は面倒くさがりながらも渋々廊下に出てきてくれる。
やっぱり持つべきは友なのだと噛み締めながら、金田一と並んで廊下の壁に寄りかかる。
通りすがる生徒たちを目で追っていると、頭上から盛大な溜息が降ってきた。
「国見と何かあったのかよ」
ここ最近の不自然なまでの私の行動の理由を、金田一は見透かしている。
「別に」
「目、泳いでるぞ」
話を聞いてほしいのに、気の抜けた風船のような返事をしてしまう私が相当な頑固者だということは既に自覚済みで、金田一もそれを知っているはずだ。
―――でも、国見と何かあったわけではない。
「金田一って、嫉妬とかしないの」
壁に背を預けながらずるずるとしゃがみ込んだ私の視界の端には、こちらの存在に気づく様子もなく教室から出てきた国見の姿を捉えている。
唇の内側に歯を食い込ませながらも、平常心を保つように乾いた冷たい空気を吸い込む。
「それ嫉妬する相手のいない俺への嫌味か？」
国見の存在には金田一も気づいていると思う。
いつもなら真っ先に声を掛けるはずだ。でもそれをしないのは、きっと彼なりの気遣い。
本当にいい友達だ。でも、私たちに挟まれて、振り回されて可哀そうだとも思う。
‟アイツ、いいのかよ”と言うように国見の背を顎で指す金田一に気づかないふりをして、先ほどの会話の続きを展開する。
「あれ。金田一って及川さんにぞっこんだって前に国見が言ってたけど」
国見が角を曲がってその姿が見えなくなる。
何処に行ったのだろうと頭をフル回転させるが、なんとなくわかってしまう。所謂女の勘ってやつ。
「おまっ、ちっげーよ！いや、違わなくはないけど…そういう意味じゃねえ！」
＿＿＿国見は、あの先輩のところに行ったのだろうか。
「慌てすぎ」
「お前が訳の分かんねえこと言うからだろ！」
金田一が馬鹿みたいに正直だからこそ、私も国見も彼を信用している。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 823人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
小鈴(プロフ) - 楓鈴さん» コメントありがとうございます！そう言っていただけて本当に嬉しいです！パスワードはメッセージにてお送りさせていただきますのでご確認ください！ (2022年8月18日 15時) (
レス) id: ae1e2047a9 (このIDを非表示/違反報告)
楓鈴(プロフ) - 小鈴様の作品どれも面白くて一気読みしてしまいました(笑)素敵なお話、ありがとうございます。その…恋愛保護方針論の小説を読みたいです…！パスワードを教えて下さいませんか。コメント失礼しました。 (2022年8月6日 0時) (レス) id: 20d25d3656 (このIDを非表示/違反報告)
小鈴(プロフ) - 夕月さん» コメントありがとうございます！古い作品の中からわざわざ読んでいただき嬉しい限りです！パスワードはメッセージにて送らせていただきます！ (2022年7月23日 0時) (レス) id: ae1e2047a9 (このIDを非表示/違反報告)
夕月(プロフ) - こちらの作品や小鈴様の他の作品を拝見して今更ながらファンになりました。2年以上前の作品にはなりますが、「恋愛保護方針論【HQ】」も拝読したく、パスワードをお教えいただけないでしょうか。このメッセージに気付いてもらえますように。 (2022年7月21日 11時) (レス) id: 2778bc399a (このIDを非表示/違反報告)
小鈴(プロフ) - 月花さん» コメントありがとうございます！お返事遅くなってしまったので、まだ見られているかわかりませんが、パスワードをメッセージで送らせていただきますね！ (2021年11月4日 19時) (レス) id: 3ef1db8aa1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小鈴
| 作成日時：2019年12月3日 22時
