甘えの構造 ページ33
私が松川の後ろから姿を現すなり、瞬く間に及川に腕を捉えられる。
そして及川は、私の顔を一目したあと、黙ってその腕を引いた。
及川がどんな表情をしていたのかはわからない。見えなかった。
手を引かれるまま振り返ると、松川は黙って私たちを見ていた。
そのまま及川は口を開くことなく階段を降りていき、空き教室へと入った。
朝のＨＲのチャイムが校内に鳴り響く。
ドアを閉めるなり私の正面に回って両腕を掴んだ及川は、俯く私の顔を身を屈めて覗き込んだ。
「A、ごめんね」
及川がその言葉とともに、親指で私の目元を撫でた後、流れるように頭を撫でる。
彼の綺麗な顔が、触れられるほど近い距離にある。
でもその綺麗な顔を歪めさせている原因は、私のほかない。
「及川のせいじゃないよ」
不安をかき消すように、わざと思い切り口角を上げて笑って見せた。
でもやっぱり及川は、そんな私を困った表情で見るばかり。
「A」
及川が優しく私を呼ぶと同時に、頭を撫でていた手が後頭部に回され、そのままゆっくりと自身の方へと頭を寄せた。
流れに身を任せると、そのまま及川が私の身体を抱きしめた。
及川の匂いが、鼻を掠めた。
何が起こったのかと、頭が混乱して脳内で二転も三転もした。
「お、及川…？」
私は動くこともできずに及川の名前を呼ぶも、返事が返ってくることはなく、その代わりとでも言うように及川が私を抱きしめる腕に更に力を込めた。
一瞬頭の中が真っ白になったものの、ふつふつと沸き起こる自然な喜びが体を押し浸した。
「及川、迷惑かけてごめ、」
「俺のせいで、ごめん」
私の言葉を遮って、及川が耳元で謝った。
及川のせいなんかじゃない。そう言いたかったのに、嬉しさを支配する罪悪感が入り混じって、言葉が詰まった。
及川のこの行為は、決して思わせぶりなんかじゃない。彼の優しさそのもの。
こんな時でさえ、彼に対する想いが溢れだしそうなくらいに、私は及川が好きだ。
もう、どうでもよくなるくらいに。今この行為に意味なんかなくとも、好きになってもらえなくとも、どうでもいい。
―――――及川が、好き。
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いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!１日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (
レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした！ (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです！一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです！ (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした！マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました！ (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ？は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小鈴
| 作成日時：2019年10月17日 21時
