malus＿1 (ページ9)

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なんで。
口から出ることはなかったが、心の中ですぐに思い浮かんだ言葉。

どことなく、なんとなく言われる予想はしていた。
そらるさんのあの綺麗な笑顔は見たことなんてなかったから。だから、きっと何かあるんだろうと。

「嫌、です…っ！」

がたん。
私が勢いよく立ち上がったことによって座っていた椅子が倒れる。周りの人の目が一斉にこっちに向いて、視線が集まった気がした。

でも、私はそんなこと気にしていられるほど冷静じゃなかった。

だってそらるさんがどこかに行ってしまいそうだったから。
だってそらるさんが、私が知らない場所に1人で行って、私を置き去りにしていきそうだったから。

「やだ、やだ！なんで、なんで、そんな、一緒にいられない、なんて」

言葉を一つ一つ言うたびに、涙が一個一個ボロボロと宝石のようにして溢れてこぼれ落ちて。泣いてるんだなとどこか他人事のように思う。

だけど、そらるさんは優しく微笑むだけ。

「なんか、言ってください、言ってよ、そらるさん、！」

「うん、……ごめんね」

「謝らないで、謝らないで！今も、その自分勝手で動こうとしてるのに、なんでそんなに悲しそうな顔してるんですか！いつもみたいに余裕のあるような顔してくださいよ！」

周りの目も気にせずに、涙を溢れさせながらそらるさんに怒鳴る。ううん、たぶんこれは私の心の叫び。私をひとりにしないで。勝手に行かないで。という叫び。

私は何か、分かっていた。
一緒にいられないことを。

だから、そらるさんが変なことを言っても、気のせいだと心のどこかで逃げていた。

「……そらるさん、行かないでください、行かないで」

私はそれくらいそらるさんが好きなんです。大好きなんです。

ほぼ消え入りそうな声で、喉から声を出す。

ずっと一緒にいると思ってた。
この日常が続いていって、付き合ってなくても、友達としてずっと、ずっと、そばにいてくれるんだと思ってた。

「ダメ、なんだ。お前はまだこっちに来ちゃ」

そう言いながら、そらるさんは涙で濡れた私の頬をふわりと包むかのようにして掴む。やめて、お願い、そんなに優しくしないで。

そんな寂しそうな優しそうな顔で私を見ないでください。

「や、です、なんで、そらるさんなんですか、なんで、なんでですか」

「…大丈夫、まだ、一緒にいられないだけ。俺はずっとAのことが好きだよ。ずっと愛してる。どんな姿になっても、おばあちゃんになっても愛おしいよ。」