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『…おい、なんで泣いてんねん』
さっきまでへらへらとしてたというのに、彼女はまた涙を零してしまった。
まあ、泣かせたのは間違いなく俺だけど。
彼女が涙を零す度に、自分の中の黒いぐちゃぐちゃとした気持ちが溢れてきそうだ。
黒いその感情は今すぐにでも吐き出してしまいたいぐらいに苦くて気持ち悪い。
彼女が新しい恋人をつくった時にも、それはよく俺の中でもやもやと残っていた。
『……っくそ、泣きたいのはこっちやわ』
そう呟いて触れるだけの口付けを数回落とした。自分の黒い感情を押し付けてやるようにしたキスは、あまり気持ちの良いものでは無い。
「やだ…センラ今日変だよ、」
『なに、どこが？』
「今までキスなんてしてこなかったのに、なんで」
途切れ途切れに聞こえるその言葉は震えていた。
元々変なのはそっちの方だ。彼氏がいた癖に何回も電話を寄越して「センラのそういうとこ好きだな」だとか思わせ振りの他何でもないだろう。
ただ、今までの俺の気持ちが溢れてしまった。それだけの話だ。
『……分かんない、好きやからかな』
「な、なにそれ、なにそれ」
『知らんわ、だって好きなんやもん、好きやA、すき』
ぽろぽろと口から出ていく言葉に、甘ったるくて自分でも胸やけしてしまいそうだ。
好きなんやもん、なんて恥ずかしすぎる。どうせいつかネタにされるんだろうなあ。いや、いつかなんてあるんかな。
感情に任せてもう一度キスをすると、彼女は手の力が緩めて小さく声を漏らした。
あー、その声好き。てかそんな声出るんや、かわいい。
「……ん……せんら、まって……」
くぐもったか細い声を漏らすAはやけに色っぽくて、俺はなんだかいけない事をしている気分になった。
彼女の本性を無理矢理抉るみたいに暴いているようで、罪悪感と興奮が同時に襲いかかる。
『…A、めっちゃかわいい、好きや…』
口を離すとAも少しばかり息が荒くなっているようだった。
Aは俯いたまま、また小さい涙を零した。
俺はそんな彼女の頬を両手で包んで顔を寄せる。これだけ近いと、互いの息遣いまで聞こえてきそうだ。
『なあ、好き。俺本気なんよ、ずっと前から』
「…うん、しってる」
Aは小さく喉を鳴らした後、俺の首に手を回して俺を引き寄せて言った。
本当にか細い小さい声だった。
「センラとは、この関係でいたい」
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