malus＿1 (ページ21)

今日:1 hit、昨日:31 hit、合計:23,535 hit

ページページ21

・

夕暮れで赤く染まった教室の中。今日やりたいことなんてもうあるはずもないのにただ窓の外の景色を自分の席から眺めて無心になっていた。

多分私は現実を忘れてしまいたいんだと思う。

(この世界が憎い。)

こんなにも明るい世界があって日が登っている時にも平穏な空間が広がっているのに日が落ちると残酷な惨状が現実として映るのだからこの世界の本物の姿がよく理解できない。

正直に言えば私は吸血鬼が嫌いだ。

自分の欲求を満たすためにそこら辺の人間を犠牲にしてまで自己満足感を得る。それを周りは「運が悪かった」という言葉だけで事を片付ける。そんな世界が私は憎い。憎くて仕方がない。

けれど私も同じ吸血鬼の一族。だから親が亡くなってからも自分の生まれを恨んだことは数え切れないほどある。

(…そろそろかな)

吸血鬼の衝動がじわじわと湧いてきた。飢えて辺りの人間を襲わないように鞄の中に入れてきた抑制剤を取ろうとファスナーを開けた。

「…ない？」

しかし手には試験官の硬い感触が伝わってこなくて背筋が凍り冷や汗が頬に向かって滴る。

もう一度よく探そうと鞄の中を覗きながら探ったがそれらしきものは見つからない。日は沈んでいき私の鬼化がただただ進んでしまう。

血が欲しい、脳裏に侵食していく吸血鬼の本能。

「っ…」

(まずい。はやく、早く帰らなきゃ。誰にも会わないように早く)

自分の口を抑えて息切れが激しくなりながらもなるべく理性を保ち、私は誰にもみられないように脱出しようと教室の窓へと手をかけた。

「＿＿探しもんはこれ？」

教室の出入口から耳馴染みのあるひとつの声。咄嗟に振り返れば開けっ放しのドアにもたれかかりながら誰かの手元でチラつく試験管に入った透明の薬品に目が行く。そこから身体へ顔へと視線を移せば見覚えのある生徒が一人。

「…志麻」

・