【4】はじまりのスプラウト ページ8
頭が真っ白になりました。ただ、たった今まで考えていたことが、至極どうでもよい事であったことだけは漠然と感じられました。
行かなければならない。
サクラさんの引き留める声も届きません。天啓に似た直感に突き動かされるようにして、わたしは安息の地をかなぐり捨て、木漏れ日の差す戦場のただなかへと飛び込みました。
渇れかけの魔力と、傷の増えた杖、なけなしの勇気だけを持って。
「冒険者さん!」
「なっ……なして出て来んじゃ!下がっていんさい言うたじゃろ!」
近付いてはじめて、冒険者さんの受けた傷が見えます。
不意を突いて打たれたのでしょうが、肌に残る赤色の淡さと、汚れはすれど破れの見られない服とから、どのようにか衝撃を受け流し、僅かな痛手で済ませたのであろうことが伺えました。
冒険者さんの抗議の声には、一度頭を下げることで返事に代えます。冒険者さんは呆れ半分に眉を下ろし、起きたことは仕方ないとばかりに溜め息を付いてから、水を向けてくれました。
「考えはあるんかいね」
「爆弾は……火のつく爆弾はありませんか」
聞くが早いか、冒険者さんの顔には悪どい笑いが広がります。
「某ァ専門家じゃけえの」
幸運だと思いました。ならば必要なものは揃っています。チャンスは一度きりですが、あるだけ良いというもの。
助け起こしてくれた冒険者さんに、今度はわたしが手を差し出します。
「力を貸してください」
「逃げるんに使うんか」
「いいえ。倒します」
どちらとも、逡巡はありませんでした。
冒険者さんはわたしの手をしっかと掴み、もう片方の手で額に当てていたゴーグルを下ろします。
「承知した」
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作者名:小春 | 作成日時:2022年7月20日 16時