【3 後編】はじまりのスプラウト ページ7
変化のない戦況。力量はまったくの互角、ともすれば冒険者さんが僅かに上回るかもしれません。しかしこちらとあちらで違うのは、体力の限界という概念を持つかどうか。
このまま戦いが続けば、真綿で喉を締められるように、こちらが劣勢へ追い込まれていくであろうことは明白でした。
見ているだけのわたしにも、ということはきっと戦場の冒険者さんにも、既に勝利までの道筋は見えていました。
どうにかして触腕を一度に奪ってしまえば、あとはなんとでも料理ができる。問題はその方法とタイミングだけ。
欠くものが満ちれば、勝てるはずなのです。
そこまで考えて、わたしはとうとう辿り着いてしまいました。なんとも恐ろしく、信じがたく、なれどこの他にないではないかと思わせる、唯一の答えに。
――もしや。もしや、それは。
勝つために必要な欠けたものとは、わたしなのではないでしょうか?
自惚れかもしれません。蛮勇かもしれません。
死を望んだときと同じような、聖女へ対する恥ずかしい憧れかもしれません。
それでもその考えがわたしを惹き付けてやまない、為すべきことである気がしてならないのです。
使命感に酔わされるまま木陰から身を乗り出そうとしたところで、唐突に"死"の一文字がわたしの脳裏にきらめきました。
死!そうです。わたしは臆病で愚鈍で物知らずな、町娘気分の抜けない素人冒険者です。
あんなふうに素早く攻撃を避けるなんて、夢のまた夢。
何か一つでも行程をしくじれば、何が起きたかも分からぬまま、またもや吹き飛ばされるに違いありません。
死が恐ろしいことは、未だ残る腹と背の疼痛が雄弁に教えてくれています。せっかく拾ってもらった命を無為に帰することは、それこそ恩を仇で返す行いなのではないでしょうか。
けれど。けれど死が恐ろしいのであるならば、それを思い知ったのであるならば、命の恩人である冒険者さんに、そのような恐ろしい目に逢わせて良いわけがないではありませんか!
樹木の後ろで思索を巡らせ、決め手なき選択に惑っていると、やや遠くから鈍い音が届きました。幹にしがみついて様子を伺います。
膝をつく冒険者さんを見れば、何が起きたかは一目瞭然でした。わたしが愚かしくも命を天秤にかけている間に、彼の限界が訪れたのです。
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作者名:小春 | 作成日時:2022年7月20日 16時