【2 前編】はじまりのスプラウト ページ4
助けを探してくると飛んで行ったサクラさんを見送り、眼前の危険に向き直ります。
悪いことに、出てきたのは魔物さんの方でした。
ああ、神様なんて!そう思ったのもほんの一瞬、これも神様がお与えになった試練なのやもしれない、とすぐさま考え直します。
ともかく、相手が魔物さんとあれば、無抵抗にやられるわけにはいきません。魔物さんに命を奪われるのは、餓え死にと同じくらい得のない死に方です。
魔力はずいぶん前に底をついています。全くないわけではありませんが、一回だけ、それもごく小規模な技で足りるかどうか。
魔法がだめとなれば、頼れるものはもう、自分の力しかありません。乱暴な方法ではあるけれど、折れさえしなければ、この杖だってリーチの長い鈍器として成り立つはずです。
いえ、それにしても。
ふと思い立ち、思案に俯いた顔を持ち上げます。いまわたしの前に立ちはだかる魔物さんは、濁った紺色をした不定形。斬撃はもとより、殴打など僅かの痛手にもならないでしょう。杖を振り下ろされた魔物さんがぶにょんと形を変え、飲み込むように杖を取り込んでしまう絵がありありと浮かびます。
そうでなくとも、相手はわたしと同じくらいか、あるいはそれ以上の高さを持っているのです。杖を振りかざして、どこにぶつければいいのでしょう。それ以前に、上からぱっと杖を取り上げられてしまったら?
いけない、他の方法を考えなくては。なるべく早く。早く――
瞬間、衝撃が腹をぶちました。
足が地を離れ、数メートル後方に背を叩きつけられてから初めて、攻撃を受けたことを理解します。触手の払いが当たったのでしょう、焼け付くような痛みが体を横切りますが、踞って耐えたい思いとは裏腹に、擦った背中が身を起こすことを許してくれません。
明滅する視界の中、戦わなければならない、という思いだけがわたしの意識を保ちます。戦わなければ。いまここで倒さなければ、他の誰かが襲われてしまう。
手元にない杖を目だけで探すと、ほんの二、三歩ほど先に落ちているのが見えました。魔物さんの近付く音に悪寒と焦燥を覚えながら、杖へ向かってめいっぱいに手を伸ばします。傷を負った体に鞭打ち、身を捩り。何かが軋む音。朧気な痛み。
けれどもわたしが如何様な努力をしたところで、杖は変わらずそこにあり、わたしは変わらずここにいました。
ついに手は届かぬまま、ひゅっと風を切る音が聞こえました。
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作者名:小春 | 作成日時:2022年7月20日 16時