【7 後編（完結）】宵待ちミーティア ページ24
｢……いや、願い事なんぞそう無えな。お気楽に生きていられりゃあ、そんでええ。まァ、強いて言うなら｣
数十秒にも思える闇が、白い光で払われます。
いつもの笑顔がありました。
｢――お前さんも楽しんでりゃあ、文句無しじゃ｣
花火は終わりに近付いているようでした。
夜空いっぱいに広がる極彩色の花畑。花の数だけ鳴り響く怒濤の破裂音にわざと合わせて、それならとうに、と呟きます。丘が静寂を取り戻したのを確かめてから、山椒さんはよっこらと膝を曲げました。
｢帰るか｣
｢……はい｣
余所見の隙を狙ってしれっと手拭いを懐に持ち帰る山椒さんにくすりとしながら、彼を追って帰路につきます。振り返ればもう灯りはなく、手元の風車の空回る音が、夢の終わりを虚しく告げているように聞こえました。
俯くわたしに、山椒さんが上を見るよう促します。空に広がる星を見なければ勿体ないと。思えば山椒さんが流星だと言ったものは実のところ花火が上がるさまで、願いをかけても仕方のない、単なる火の尾に過ぎませんでした。
本当の流れ星はどこかにないだろうかと、寂寞の夜空にぼんやり視線を注いでいると、帰り道を中程まで進んだところで、夜空にすっと一本、白い光が引かれているのが視界に入ります。
火の尾とは違う、儚く頼りない白雪の軌跡。これがそうなのかもしれないと瞑目し、そっと願いをかけました。
――またお祭りに来られますように。
叶うならば、山椒さんと。
胸の中で呟くのを待っていてくれるように、ゆっくりと進む星。ところが山椒さんの袖を引いたところで、願いを乗せた箒星はふっと彼方へ姿を消してしまいました。
なんじゃ、とわたしの言葉を待つ山椒さんに微笑みかけます。
｢流れ星が走るのを見たんです。きっと、すぐにまた流れますよ｣
夢の名残の散らない花が、夜風に吹かれて回ります。いつまでも、いつまでも。
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作者名：小春 | 作成日時：2022年7月20日 16時
